大野雄を菅野にぶつける、攻撃での奇襲…井端弘和氏に聞いた中日逆転Vへの策

中日・大野雄大【写真:荒川祐史】

中日が逆転優勝するために絶対に必要な「巨人を叩くこと」

今、中日が強い。9年ぶりの5カード連続勝ち越し。最大9あった借金は1に減り、最下位から3位に浮上。2位DeNAと1ゲーム差。首位巨人と5.5ゲーム差。竜が勢いに乗っている。

8月23日のDeNA戦で4試合連続完投勝利の大野雄大はお立ち台で「狙っているのは2位じゃない。ドラゴンズはこんなもんじゃない」と力を込めた。7年連続Bクラスに沈む中日が逆転優勝するシナリオをどう描くのか。

中日、巨人でリーグ優勝を経験し、去年のプレミア12で世界一となった侍ジャパンのコーチを務める井端弘和氏に、23日のCBCテレビ「サンデードラゴンズ」への出演後に話を聞いた。

「絶対条件は巨人を叩くこと。今年はクライマックスシリーズがなく、試合数も少ないので、普通に戦っていては逃げ切られる可能性が高い。追いかけるチームは仕掛けるべきです」

巨人との直接対決は8月に9試合もあり、ここまでは4勝1敗1分。今週末は東京ドーム3連戦が控えている。9月は6試合あるが、10月以降はわずか3試合になる。そこで井端氏が提案した作戦は大胆なものだった。

「9月8日の巨人戦が勝負」大野雄と菅野のエース対決で勝利を

「菅野(智之)に大野雄をぶつけるんです。僕は9月8日火曜日の巨人戦が勝負だと思います。巨人の火曜日の先発は菅野。そこにあえて日曜日に投げている大野をぶつける。中6日を中8日にするだけですから、調整も難しくないし、2週間前に金曜日から日曜日にずらした経験もある。今、菅野は楽天時代のマー君(田中将大)状態。敵も味方も勝つ計算をしている。そこを崩せば、慌てるはずです」

エース対決の勝敗は大きいと言う。

「その試合で勝てば、大野雄が本当のエースになれると思うんです。チームメイトにも首脳陣にもファンにも認められる。また、野手の士気も高まります。僕も現役時代、上原(浩治)と(川上)憲伸が投げ合う日は一層気持ちが入りました。勝てば、勢いがつくし、負ければ、ガクッとくる。僕ならもう大野雄に言いますね。次の東京ドームで投げたら、その次は中8日でまた巨人戦。菅野を倒せと」

仮に9月8日の巨人戦に先発すれば、次は15日の広島戦に中6日で登板。その後、中5日で21日のヤクルト戦に投げれば、再び中5日で27日の巨人戦に挑める。エースを軸にしたローテ再編が仕掛けの1つ目だ。

さらに井端氏は攻撃面でも追撃プランを打ち明けた。

中日の攻撃の課題は「もう少し得点パターンを増やすべき」

「試合終盤での奇襲です。中日はもう少し得点パターンを増やすべき。接戦の7、8、9回で相手に何をしてくるか分からないと思わせることが大切です。今の攻撃はイメージしやすい。まず、序盤はほとんど打つだけ。逆に終盤は打率の良い大島(洋平)でも、手堅く送りバント。これは守っていて楽です。盗塁も一、三塁で一塁ランナーが走るくらい。足を絡める作戦はほとんどありません」

打線が活発な時はそれでも点が入るが、好調はいつまで続くか分からない。

「エンドラン、バスターエンドラン、単独スチールをしびれる場面で仕掛けることです。あと、中日の単独スチールはボールカウントが進んだ後や1アウト、2アウト後が多い。ノーアウト一塁の初球盗塁はほぼ記憶にありません。走れる選手は限られていますが、走るタイミングのバリエーションを増やせば、もっとバッテリーにプレッシャーをかけられます」

最後に井端氏は勝負所での極意を語った。2011年に中日は球団史上初の連覇を達成。首位ヤクルトとシーズン終盤に2度の直接対決4連戦があった。9月23日。2対2の8回裏、2死から荒木雅博が二塁打を放ち、井端氏が打席に向かう。マウンドには久古健太郎がいた。

「ネクストから打席に入る間に腹を括ったんです。まず、あの場面で僕にインサイドの真っ直ぐはない。あっても見せ球。そこに3つストライクが来たら、ごめんなさい。勝負は必ず外の変化球。だから、それだけを狙う」

井端氏の勝負所での極意「絶対にしてはいけない『配球の後追い』」

しかし、初球は外へのストレートだった。井端氏は面食らった。

「想定外の入り方でした。しかも、ストライク。かなり動揺しました。でも、ここで絶対にしてはいけないことは『配球の後追い』なんです」

レギュラーを獲り始めた頃、井端氏はシーズン打率よりも得点圏打率が極端に悪かったと言う。

「理由を突き詰めた結果、僕はチャンスで配球の後追いをしていたんです。狙い球を絞って打席に入る。でも、初球にそれが来ない。すると、次を読んで、新たな狙い球を決める。また、外れる。また、決め直す。結局、あれもこれも追いかけて凡退。これを繰り返していました。あくまで僕の経験からですが、得点圏では狙い球を変えないこと。追い込まれた後に狙い球と違うボールが来た時はファウルで逃げる。その技術は練習で鍛えました」

結果、2球目の外の変化球をセンター前に弾き返し、二塁から猛スピードで荒木が返ってきた。アライバの2人でもぎ取った、この1点が優勝を引き寄せたと言っても過言ではない。

「Bクラスが続いていますが、毎年良い所までは来ています。今年こそ山を乗り越えて欲しい。個人成績はどうでもいい。とにかく勝つこと。そこに全員が集中できるかどうか。淡々とプレーするのではなく、背中から殺気を感じるような姿を見たいですね」

ローテの再編、終盤の奇襲、チャンスの心得。修羅場を潜り抜けてきた勝負師の提案は聞くだけで手に汗握った。中日は今後も強いのか。最後に笑えるのか。シナリオの結末は秋に分かる。(CBCアナウンサー 若狭敬一/ Keiichi Wakasa)
<プロフィール>
1975年9月1日岡山県倉敷市生まれ。1998年3月、名古屋
大学経済学部卒業。同年4月、中部日本放送株式会社(現・株式会
社CBCテレビ)にアナウンサーとして入社。
<現在の担当番組>
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