GoToトラベル、「非常識なスイートルーム」がビジネスホテルの窮地を救った

賛否両論、右往左往、旱天慈雨、阿鼻叫喚……どんな言葉を当てはめたらよいのかわかりませんが、とにもかくにもスタートしたGoToトラベルキャンペーン。お得な利用術から政治的な評価まで様々な論評が既になされていますので、制度の解説や運用等についてはここでは控えますが、のべ420万人が利用したというGoToトラベルキャンペーン。ある特徴的なホテルの現場を取材しました。


高級な施設や部屋へ予約が殺到

今回取材したホテル ココ・グラン高崎(群馬県高崎市)

まず、GoToトラベルの渦中で様々なホテルを取材し特徴的だったのは、“高級な施設や部屋ほど効果が高かった”という施設側の声です。筆者の仕事においてもそれは実感しており、実際に8月上旬に仕事で取材の申し込みをした高級宿から「満室なので日程変更をお願いしたい」という例や、テレビのロケ日程を組もうとしていた高級ホテルから満室ということで叶わなかったケースがありました。話を聞くといずれもGoToトラベルの影響で予約が殺到したということでした。

割引率という点で高い宿ほどお得感があるという点からも、この機会に高級宿を利用してみようというのは消費者心理からしたら自然なことなのかもしれません。一方、ビジネスホテルのような料金の安いホテルは都市部を中心に値下げ合戦の様相も呈しており、GoToの恩恵も限定的だったという関係者の声を聞きます。

自治体の施策も大きな効果

スタンダードタイプのシングルルーム

筆者がホテル評論家となって以来、約8年間にわたり定点観測的に取材している群馬県高崎市の「ホテル ココ・グラン高崎」へはコロナ禍において3回ほど取材を試みました。1回目は3月、2回目は6月、そして今回3度目の取材が実現できました。こちらのホテルは宿泊特化型ホテルですが、ビジネスホテルというにはデザイン性やデラックス感、高付加価値的なサービスが特色で、地方都市のホテルにして全国区の人気を誇ります(当連載でも掲載)。

コロナ禍以前であれば稼働率は平均9割だったとのこと。東京から完全な日帰り圏にして、訪日外国人旅行者の恩恵は限定的とされる高崎市のホテルにしては注目すべき数字かと思われます。そんなホテルでも他のホテル同様にコロナ禍の影響は甚大で、特に緊急事態宣言下では惨憺たるものだったといいます。そんなコロナ禍の営業において稼働率上昇のきっかけだったのが、実はGoToに先駆けてなされた自治体による施策でした。6月5日宿泊分からスタートした、「愛郷ぐんまプロジェクト『泊まって!応援キャンペーン』」(現在は終了)の効果は絶大で、宿泊者の4割ほどがキャンペーン利用者だったといいます。

続くGoToトラベルキャンペーンにおいても、ホテル全体でいえばその効果は宿泊者全体の65%ほどだとし(直販15%/OTA(いわゆる予約サイト)50%)、取材時点での8月の稼働率は7割ほどまで回復しているとのことで、前月の愛郷ぐんまプロジェクトで戻した稼働率を維持できているといいます。GoToの利用者は群馬県内か隣県といったところで、遠隔地への移動が忌避される中で、やはり東京除外は想定外だったようです。

料金を下げれば稼働率は上がる?

男性用大浴場

稼働率の話をしましたが、ホテルの業績で重要な指標は稼働率(OCC)もそうですが“ADR”やRevPAR(レヴパー)とされます。ADRとは平均客室単価のことで客室がいくらで売れているかがわかります。一方、RevPARは販売可能な客室1室あたりの収益を表す値のことを指しますが、これが重視されるのは一般的に料金を下げると稼働率は上がるという表裏一体の関係があるからです。

ホテルの料金は曜日やシーズンなどで変動させるのが一般的。一方、少数派ですが基本的に変動させないことをポリシーにしているホテルもあります。ホテル ココ・グラン高崎もそんな少数派ホテルのひとつで祝前日でも1,000円程度の差です(特定日は例外)。

GoTo下において、高崎市内でココ・グラン並の稼働を出したビジネスホテルもありましたが軒並みかなり料金を下げていました(ココ・グラン料金の6割程度)。料金を変動しなくとも稼働を維持できているココ・グランについて言えば、閑散日でも泊まる人は泊まるという付加価値をもって選ばれるホテルの実力を感じます。

フロントスタッフの話として、ある客が「あからさまに料金を下げるホテルは逆に心配」という話をしていたといいます。話は逸れてしまいましたが、同ホテルのかような開業時から一貫しているポリシー誕生の背景や、リードタイム(宿泊日と予約日の間の日数)と料金設定の考え方についても詳しく取材もしていますので、これらについては別の機会に譲ることにします。

スイートルームに助けられた

さらに、GoToトラベルの恩恵は意外なところでホテル ココ・グランへもたらすことに。それがスイートルームの存在です。同ホテルには、宿泊特化型としては珍しくスイートルームといったラグジュアリーな客室を一部擁しています。最高峰のスイートルームは1室(約10万円)、スイート2室(約6万円)、ラグジュアリーツイン4室(約5万円)といった客室群です。実際、最高峰のスイートは別格の客室面積や設備が噂を呼び、人気テレビ番組などでも取り上げられ、一度は泊まってみたい部屋としてかなり有名な客室とされ、コロナ禍以前から競争率は高くなっていたとのことです。

今回のGoToトラベルでは、上記の高価格帯群の動きが活発になり特筆すべき稼働になったとのこと。客室数単位でみれば大した割合ではありませんがとにかく単価が違います。仮に上記高価格帯の客室7室全て埋まったとして、1日計約42万円でスタンダートシングル(約1万円)42室分が埋まった効果に相当します。開業当初は非常識なスイートルームを設けるなんてどうだろうと思っていたとスタッフはいいますが、「非常識なスイートルームが話題を呼びホテルのイメージがアップ、そして今回これらの客室には本当に助けられた」としみじみ支配人は語ります。


悲喜交々のGoToトラベルはまだまだ続きます。引き続き現場のリアルな声を取材してまいります。

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