トレーニングジムが変化を迫られている。3密が懸念され、集団感染も発生した。新型コロナウイルスとの闘いは予想以上に長いものになりそうだ。世間的な視線が厳しくなってしまい、どうすればお客さんに納得して戻ってきてもらえるのか―。生き残りをかけ、進化を続けるジムを訪ねた。(共同通信=宮野翔平)
▽緊急事態宣言中にオンライン化
六本木ヒルズを望む東京・西麻布の閑静な住宅街。ビルのガラス越しにトレーナーと汗を流す人たちの姿があった。会員制のパーソナルトレーニングジムの名は「デポルターレクラブ」。栄養カウンセリングや体組成チェック、採寸によって一人一人に合ったトレーニングメニューを提供する最先端のジムだ。
4月、緊急事態宣言中にスポーツジムも休業要請の対象になった。同クラブも休館を余儀なくされ、ジムには人がいなくなった。だが4月中旬、オンライントレーニングの開始に踏み切る。
「みなさんが不安で孤独な空気になっていた」。竹下雄真(たけした・ゆうま)代表(41)は振り返る。オンライン指導の案内と使用するゴム製チューブを、トレーナーによる手書きの手紙と共に会員に送付した。
▽どこでもマンツーマン指導
会員はパソコンやスマートフォンを全身が映るように置く。ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」などのアプリを使い、どこでもマンツーマン指導を受けられる。自分の体重で負荷をかける自重トレーニングが中心だ。「生活のリズムが整った」「一人ではできないがトレーナーと約束することでトレーニングできた」と好評を得た。
会員はプロ野球やJリーガーなどのアスリート、芸能人、経営者と幅広い。プロ野球日本ハムの清宮幸太郎選手や歌手の西川貴教さんも同クラブで肉体強化に励んでいる。これまでも海外で活躍する選手を遠隔でサポートしてきており、積み重ねてきた経験やノウハウがオンライントレーニング導入に生かされた。
「大事なのは約束です」と力を込める竹下さん。「人は他人との約束を破るのは嫌。約束は習慣化するために大切」。会員とのつながりを重視し、今はジムとオンラインの両軸で指導を続ける。ジムを再開したのは5月7日だった。
▽「箱を作ってはいどうぞ」ではだめ
ジム内は医師が監修し、換気、検温、密集回避を徹底。各器具のアルコール消毒も強化。次第に利用者が戻った。「今生き残れているのは会員様との信頼関係のおかげ」と竹下さん。従来の「箱を作ってはいどうぞ」という仕組みでは厳しくなってきた。重要なのは、一人一人にいかに寄り添えるか、どのように人生をよりよくできるかだ。
新型コロナの感染拡大を通じて、普段から健康でいることの大切さを身に染みて感じた人も多い。健康でいることは精神面も含め多くの問題を改善すると考え、竹下さんは未病にも力を入れてトレーニングに還元している。
同クラブが掲げてきたミッションは「存在するなら、進化しろ」。これからも運動が必要なことに変わりは無い。形を変えてでも、前を向いて続けていく。