相模湾染めた酒匂川の濁流 10年かけ影響消失、神奈川県調査  山林整備や河川改修で

相模湾を茶色く染めた酒匂川からの濁水=2010年10月6日、本社チャーターヘリから

 台風などで起こる酒匂川の濁流が海に及ぼす影響について、2010年から調査を行ってきた神奈川県水産技術センター相模湾試験場(小田原市早川)は10年間の調査結果をまとめた。同年の台風による濁流で大幅に悪化した河口付近の海底環境は、上流の山林整備や河川改修などで改善し、すでに影響は消失。19年の台風19号では大きな影響はみられなかった。

 調査は相模湾水産振興事業団の委託を受けて定期的に実施している。10年9月の台風9号で酒匂川から大量の土砂や倒木が濁流となって海に流出し、定置網など漁業に大きな被害が出た。その対策などの参考にするため行われてきた。

 台風9号では酒匂川の上流に当たる鮎沢川が流れる静岡県小山町北部に集中豪雨があり、土砂崩れが発生。約300年前の富士山噴火で堆積した火山灰やスコリア(火山礫)など少なくとも1億立方メートルが流出した。下流の南足柄市から開成町に及ぶ広範囲にスコリアなどが滞積して地元住民を驚かせ、酒匂川の防災について考えるきっかけともなった。

 調査は10年11月に開始。当初は頻繁に行っていたが次第に間隔を空け、14年度からは夏と冬の年2回になった。河口周辺や西側の石橋沖、真鶴半島の真鶴港口、同半島裏側の採石場沖などで海底の泥を採取して泥の成分や生息する生物を調べたほか、海の透明度や水温なども測った。

 調査開始当初の海底の泥は、濁流で流れてきた粘土シルトの成分が多かった。火山灰が細粒(0.075ミリ以下)となってできたもので、これがたまると海水中の酸素濃度が低くなり、生物がすみにくくなる。海の汚濁が強まったことを示すシズクガイなどの生物も多く見られた。

 その後、粒の大きい泥の割合が多くなり、13年ごろには礫(2~75ミリ)も一定の割合を占めるようになった。それに伴って、海水の清浄度が高まったことを示すモロテゴカイなどの生物が確認されるようになり相模川、境川の河口と同程度にまで回復したという。

 同試験場の木下淳司主任研究員は海中の水の流れが泥などをかき混ぜる攪拌(かくはん)作用と、上流での治山治水事業により土砂の流入が少なくなったことを理由に挙げ、「10年の濁流の影響は消失した」とみる。

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