まんが日本昔ばなしに「蟹淵の化け蟹」という話がある。舞台となるのは石川県能美市を流れる鍋谷川。淵の主である大蟹と村人たちを描いた、鍋谷町に伝わる民話だ。
現在も鍋谷町の山奥で水を湛える『蟹淵(がんぶち)』。じつは絶滅危惧種のルリイトトンボなどが生息する、動植物の宝庫としても知られている。伝説と自然が同居した神秘の池。果たしてどんな光景を目にすることができるのか、実際に足を運んでみた。
クマ出没注意の看板に、恐れをなす。
8月某日。太陽の光がギラギラと照りつける中、金沢市内から30km先にある『蟹淵』に向かった。加賀産業道路をひた走り、県道297号線を進んでいくと、左手に「蟹淵」と書かれた緑色の標識。近くには「クマ出没注意!」の看板も立っている。
スマホの電波はすでに圏外。ここから先は、何があっても自己責任だ。
看板の案内に従って雑木林を1.5kmほど進んでいくと、今度は右手に「車両通行止」の看板。ここからは徒歩。気温の割りに湿度が高く、ちょっと歩いただけでシャツが肌に張り付いてくる。
傾斜のついた砂利道を10分、ぬかるんだ岩場を5分ほど登ったところで、ようやく「天然記念物 蟹淵」と刻まれた記念碑に到達。標高268m。もうすでにシャツはびしょ濡れだ。
コバルトブルーの水辺に棲む、美しい動植物たち。
鬱蒼と生い茂る木々をかきわけて前に進むと、山々に囲まれた青緑色の水辺が目の前に現れる。神秘の池と呼ぶに相応しい絶景。季節によって色々な表情を見せてくれそうだ。
ちなみに淵の周囲は約200m。30分もあれば一周することができる。
淵の向こう岸まで行くとルリイトトンボに出会うことができた。通常は1,000m以上の高地に生息するルリイトトンボは絶滅危惧種にも指定される希少なトンボ。なんといっても全身青色の美しい姿に見惚れてしまう。このほかにも『蟹淵』には10数種類のトンボが生息。取材時にはオオルリボシヤンマの羽化も始まっていた。
6月の降雨期には天然記念物モリアオガエルの産卵が見られ、あたりは白い花を咲かせたようになるそう。その他にも水面には、未の刻に花が開くと言われるヒツジグサやカンガレイなどの希少な植物が息づいている。
道中はちょっとしたトレッキングとなるので、スニーカーなどの歩きやすい靴と、汗を拭く用のタオルは必須。虫刺されや草木による怪我を防ぐためにも、長袖長ズボンでの散策をおすすめしたい。
蟹淵ガンブチ
石川県能美市鍋谷町地内
料金/無料
駐車場/登山口に約4台
※こちらの情報は取材時のものです。
(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)