「好きを仕事に」は間違い? 研究でわかった「天職」の見つけ方

「好きなことを仕事にしよう」これは就職や転職時に、よく聞くキャリアアドバイスです。しかし、多くの職業研究によって、「自分の好きなことを仕事にしようがしまいが、最終的な幸福感は変わらない」と結論が出ています。その理由とは?

『科学的な適職 4021の研究データが導き出す、最高の職業の選び方』(クロスメディア・パブリッシング)から一部抜粋して紹介します。


情熱は、努力の量に比例する

2015年、ミシガン州立大学が「好きなことを仕事にする者は本当に幸せか?」というテーマで大規模な調査を行いました。数百を超える職業から聞き取り調査を行い、仕事の考え方が個人の幸福にどう影響するかを調べたのです。研究チームは、被験者の「仕事観」を2パターンに分類しました。

◉ 適合派:「好きなことを仕事にするのが幸せだ」と考えるタイプ。「給料が安くても満足できる仕事をしたい」と答える傾向が強い

◉ 成長派:「仕事は続けるうちに好きになるものだ」と考えるタイプ。「そんなに仕事は楽しくなくてもいいけど給料は欲しい」と答える傾向が強い

一見、適合派のほうが幸せになれそうに見えます。自分が情熱を持てる仕事に就ければ毎日が楽しく、金目当てに働くよりも人生の満足度は高まりそうな気がするでしょう。ところが、結果は意外なものでした。適合派の幸福度が高いのは最初だけで、1~5年の長いスパンで見た場合、両者の幸福度・年収・キャリアなどのレベルは成長派のほうが高かったからです。

研究チームは、「適合派は自分が情熱を持てる職を探すのがうまいが、実際にはどんな仕事も好きになれない面がある」と言います。いかに好きな仕事だろうが、現実には、経費の精算や対人トラブルといった大量の面倒が起きるのは当然のことです。ここで「好きな仕事」を求める気持ちが強いと、そのぶんだけ現実の仕事に対するギャップを感じやすくなり、適合派のなかには「いまの仕事を本当に好きなのだろうか?」といった疑念が生まれます。その結果、最終的な幸福度が下がるわけです。

一方で成長派は、仕事への思い入れがないぶんだけトラブルに強い傾向があります。もともと仕事に大した期待を持たないため、小さなトラブルが起きても「仕事とはこんなものだ」と思うことができるからです。

天職は「見つける」のではなく「養う」

「好きを仕事に」と並んでよく聞くのが、「情熱を持てる仕事を探しなさい」というアドバイスでしょう。誰のなかにも仕事への熱い思いが眠っており、あとはその情熱に火を点けてくれる職、つまり天職を探すだけだ、というわけです。しかし、これまたデータとは相いれません。というのも天職とは、どこか別のところにあるものではなく、自分のなかで養っていくものだからです。

くわしく説明しましょう。2014年にロイファナ大学が多数の起業家にアンケートを行い、それぞれが「いまの仕事をどれだけ天職だととらえているか?」を尋ね、「仕事に投入している努力の量」や、「毎日どれだけワクワクしながら働けているか?」といったポイントをチェックしました。その結果わかったのは、次のような事実です。

いまの仕事に対する情熱の量は、前の週に注いだ努力の量に比例していた

過去に注いできた努力の量が多くなるほど、現時点での情熱の量も増加した

被験者のなかで、最初から自分の仕事を天職だと考えていた人はほぼいませんでした。最初のうちはなんとなく仕事を始めたのに、それに努力を注ぎ込むうちに情熱が高まり、天職に変わった人がほとんどだったのです。

このような現象は、仕事以外の場面でもおなじみでしょう。もしあなたが高価なフィギュアをコレクションしていたら、お金を使ったぶんだけ愛着が増し、何があっても手放せない気分になるはずです。その他にも、大金をつぎ込んだパチンコ台ほど離れにくくなったり、楽器を練習するほど音楽が楽しくなったりと、似たような例はいくらでもあります。要するに「情熱を持てる仕事」とは、この世のどこかであなたを待っている献身的な存在ではありません。その仕事に情熱を持てるかどうかは、あなたが人生で注いだリソースの量に比例するのです。

ジョージタウン大学のカル・ニューポートは、自分の仕事を「天職」だと考えている人たちにインタビューを行った結果、こんな結論にたどり着いています。「天職に就くことができた人の大半は、事前に『人生の目的』を決めていなかった。彼らが天職を得たのは、ほとんどが偶然の産物だったのだ」仕事の種類や内容は、あなたの適職探しに影響を与えません。逆に言えばどのような仕事だろうが、あなたにとっての適職になり得るわけです。

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