「ありがとう」「残念」…としまえん惜しむ声 31日に閉園、1世紀の歴史に幕

「94年の歴史展」会場の壁に貼られたメッセージ。多くの人の思いが込められていた=8月27日、としまえん

 東京都練馬区の遊園地「としまえん」が、8月31日でおよそ1世紀の歴史に幕を下ろす。事前予約制にしたチケットは完売し、閉園を惜しむ人で連日にぎわっているという「としまえん」を最後となる週末を前に訪れた。(共同通信=榎並秀嗣)

 ▽練馬区なのに「としま」えん?

 としまえんの開園は1926年(大正15年)9月。実業家の藤田好三郎氏が、所有していた土地を「運動と園芸を市民に広く勧める」ために開放したのが始まりだ。

としまえん

 名前の由来は、鎌倉時代から室町時代にかけて、この辺りを治めていた豊島氏の居城跡にあたることにちなんだ。当時の表記は「練馬城址 豊島園」だった。

 練馬区にあるのに「としまえん」なのはそういう経緯があったのだ。

 第2次世界大戦が激化した1944年に一度閉鎖したものの、終戦後の46年に営業を再開した。その後は、65年に世界初とされる「流れるプール」を導入するなどしたことで順調に来園者数を伸ばした。そして、92年度に入園者数が約390万人とピークを記録。しかしその後は、バブル崩壊などの影響を受けて減少し、2018年度は112万人となっている。

 今年2月に閉園の見通しであることが報じられ、8月12日に親会社の西武鉄道が今月末で閉園することを発表した。

 ▽世界最古級の回転木馬にも行列

 8月27日にとしまえんを訪ねた。平日の水曜日にもかかわらず、園内は多くの人で混み合っていた。人気アトラクションの中には2時間半も待つものもあるほどだ。現在は事前に予約した客のみが入場できると聞いていたので、正直驚く。同時に、閉園を残念に思う人がいかに多いかが分かる。

 日本最古で、世界的に見ても最古級とされるメリーゴーラウンド(回転木馬)の「カルーセルエルドラド」も順番待ちの人で混み合っていた。係員に聞くと。1時間以上待たないと乗れないそうだ。

 27日の練馬区は最高気温が33度を超えた。そんな暑い中、行列に並ぶのは嫌なものだ。しかし、不満そうな顔をしている人はいない。3歳の長男と並んでいた千葉市在住の男性会社員(32)は会社を休んで来園した。「子どものころ親と乗って、すごくうれしかったことを今も鮮明に覚えている。同じ思いを長男にも体験してほしくて無理して休みを取った」と笑った。

 カルーセルエルドラドには存続を強く望む声が上がっている。としまえんによると「具体的なことは決まっていない」。

 楽しそうに、そして少し寂しそうに園内を歩く人たちをしばらく眺めていた。親子連れや夏休み中の若者に混じって、60代以上とおぼしき人たちの姿が多いことに気づいた。

世界最古級の回転木馬「カルーセルエルドラド」は別れを惜しむ人たちで混み合っていた=8月27日、としまえん

 ▽壁埋め尽くす思い

 アトラクションだけでなく、レストランの建物や設置されている椅子、駐車場までの写真を熱心に撮影している70代の女性がいた。

 としまえんのすぐ近くで生まれ育ったというこの女性にとって、同園は庭のようなものだった。春は桜、梅雨時期はあじさい、秋には見事に色づく紅葉…といつ来ても楽しめる。夏のプールも待ち遠しかった。そんな思い出を話してくれた。

 今は神奈川県内に住んでいる。体の調子はそんなに良くないが、閉園前にもう一度だけ訪れたいと思い、娘さんとやってきた。「(閉園は)切ない。残してほしいけど、長らく来ていなかったからわがままを言ってはいけませんね」と話した。

 園内では、としまえんの歴史を写真や映像で振り返る「94年の歴史展」が開かれている。会場出口近くの壁一面を覆い尽くすようにメッセージが書かれた付箋が貼られていた。

 「今までありがとう」「大好き」「楽しかった」「最高!!」「悲しすぎ」「寂しい」「うそでしょ」―。

 さまざまな思いが寄せられた付箋は層をなすように何重にも貼られている。その数は「見当がつかないほど」(係員)だ。

入り口近くには来園者に向けた感謝のメッセージが掲げられている=8月27日、としまえん

 ▽跡地には「ハリポタ」施設

 としまえんの跡地の大部分は都が買い取り、防災公園を整備する予定だ。

 また、一部には人気映画「ハリー・ポッター」の世界観を楽しめるテーマパーク「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 ―メイキング・オブ ハリー・ポッター」ができることも決まっている。

 2023年前半の開業を目指すという施設は、広さ約3万平方メートルで映画「ハリー・ポッター」シリーズの製作者が実際に設計し、制作した映画セットを設置する。来場者は多くの映画シーンを体験することで、物語を体感することができる。同種の施設は英国のロンドンに続く世界2番目の施設となる。

 園を後にする前に、もう一度「カルーセルエルドラド」を見に行った。

 「きれいだね」。記念撮影をしながら、そう話していたカップルが祈るように声をそろえた。

 「回っている姿をまた見たいな」。

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