クイーン+アダム・ランバート初ライヴ盤から「The Show Must Go On」先行公開。メンバーが語るこの曲の想い出とは?

クイーン+アダム・ランバート(Queen + Adam Lambert)が、2020年10月2日にリリースする初のライヴ・アルバム『Live Around The World』から、「The Show Must Go On」の映像を公開した。「The Show Must Go On」は、エイズという不治の病との闘いの末期にあったフレディ・マーキュリーが完成させた生前最後のクイーンのアルバム『Innuendo』の12曲目にして、最終トラックである。

メンバーが振り返る録音当時の想い出

ブライアン・メイは当時のレコーディングをこう振り返っている。

「フレディに切迫する悲劇を意識しながらも、“Innuendo”の制作中のスタジオではインスピレーションに満ちた楽しい時間を過ごしました。私たちはフレディの病気についてはあまり話しませんでした。彼は、できる限りいつもと同じように仕事をしたかったんです。でも、もうあの頃、フレディが私たちと一緒に仕事ができるくらい元気な日は週に1日か2日くらいで、その貴重な時間を有効に使っていました。当時の私は‘The Show Must Go On’というタイトルを思いつきながら、わかりやす過ぎるかもしれないと迷っていました。でもフレディがそれを気に入ってくれて、コーラスやタイトルに問題があるという考えを取り払ってくれたんです。彼はこの曲をやりたいと言ってくれました」

「この曲がどんな意味を持っているのかについては話し合っていませんでしたが、フレディのエイズとの勇敢な闘いという背景があったので、フレディの中に湧き起こる感情を声にしようという試みであることは明らかでした。当時の彼は体力的に衰えていて、自分だけで創り出すことができなかった。でも、彼が別の治療のために制作から抜ける前に、化粧で痛みを隠していた道化師についてのまだ初期段階だったこの曲の最初の歌詞を固めるために、私は彼と一緒に忘れられない特別な午後を過ごしました。そのおかげで、後々、最終的に2つのヴァースへと発展させるのに十分な歌詞の材料を得ることができたんです」

「私は曲の準備を終えて、ある晩遅くにふと頭に思い浮かんで歌詞に加えた“Wings of Butterflies”の部分も含めて、曲を通しで歌ったデモ音源を作りました。メロディには非常に難しい高音が含まれていて、私はそれをファルセットでしか歌えませんでした。私はフレディに “無理をしないで欲しい”と伝えたところ、彼は“心配いらないよ、僕は絶対にやってみせるさ”と言いました。そうして彼はお気に入りのウォッカを何杯かショットで呑んでから、ミキシング・デスクに腰を下ろして、彼の人生の中で最も素晴らしいパフォーマンスを披露したのです。“The Show Must Go On”の最終ミックスで“On with the Show”という歌詞に到達した時に私たちが聴いているのは、自らの最高傑作を残すためにすべてを克服した男の歌声なんです」

当然ながら「The Show Must Go On」は、フレディの死後にさらに深い意味を持つようになった。エイズがもたらした悲劇により、彼がクイーンのライヴでこの曲をパフォーマンスすることは叶わなかったが、1992年4月23日、ロンドンのウェンブリー・スタジアムで開催され、豪華スターたちが集結した“フレディ・マーキュリー・トリビュート・コンサート”のステージで、この曲は初めて演奏された。エルトン・ジョンがリード・ヴォーカルをとり、ブラック・サバスのトニー・アイオミがギターで参加している。

そしてこの曲は、クイーンの歴史において、もう一つの強い感情共鳴を生んでいる。ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー、ジョン・ディーコンは、パリで開催されたモーリス・ベジャールの『Ballet For Life』の初日公演で、この曲を生演奏した。伝説の振付師モーリス・ベジャールがジャンニ・ヴェルサーチと共同制作した『Ballet For Life』は、フレディ・マーキュリーとモーリス・ベジャール・バレエ団の元プリンシパル・ダンサーで、同じくエイズで亡くなったジョルジュ・ドンの生涯と作品を讃えるものだ。

『Ballet For Life』は、クイーンとモーツァルトの音楽に合わせて、1997年1月17日にパリのシャイヨー国立劇場で初演された。同公演のフィナーレには、クイーンの3人のメンバーが、エルトン・ジョンと共に「The Show Must Go On」のパフォーマンスを披露し、これがジョン・ディーコンにとって最後のライヴとなった。

クイーン+アダム・ランバートによる最新ライヴ・ヴァージョン

今回公開された『Live Around The World』からのライヴ映像でもご覧いただけるように、「The Show Must Go On」が、今ではクイーン+アダム・ランバートの最新コンサートの中でハイライト曲のひとつになっていることは間違いない。アダム・ランバートはこの曲について次のように語っている。

「‘The Show Must Go On’は、非常に深く共鳴できるメッセージを持った曲です。私たちは皆、人生の中で勝算がないと感じる瞬間や、険しい登り坂に直面していることがあると思います。この曲の演奏中は、いつも観客全体からは大きな精神的浄化や解放を感じます。フレディにとっても、この曲は人生という旅の中で大きな意味を持っていたことは誰もが認めるところだと思います。彼は命をかけて闘っていました」

この曲のパフォーマンスは、ロンドンの02アリーナで行われたクイーン+アダム・ランバートの2日間にわたる壮大なコンサートの2日目となる2018年7月4日に撮影された。どちらのコンサートも広く絶賛され、批評家たちは、「アリーナを後にする興奮冷めやらないファンの多くは、このコンサートをこれまでに観た中で最高のライヴの1つだと言っていた」と記し、「これは史上最高のライヴ・ショウだ」と断言した。

この「The Show Must Go On」のパフォーマンス映像がそれを裏付けるものであることは間違いない。紛れもなく深い感情を伴ったこのヴァージョンは、アダム・ランバートの並はずれた才能を完璧に表現している。アダム・ランバートは、これまでに何度も「フレディ・マーキュリーの代わりはいない」と明言しているが、「The Show Must Go On」での彼の大胆かつ威厳に満ちたパフォーマンスは、何食わぬ顔で見ている観客を釘付けにするだけの魅力がある。ある著名な評論家は「彼は彼自身であり、独自のスタイル、アイデンティティ、そしてニュアンスを楽曲にもたらしている」と彼を評価し、「The Show Must Go On」では、それが最も顕著に現れているのだ。

「The Show Must Go On」は、健康状態が悪化の一途を辿りながらも生きることを切望したフレディ・マーキュリーへ敬意を表して作られた曲だが、ソーシャル・ディスタンスが必要不可欠になった2020年の世界において、この曲はこれまで以上に、今という時代にぴったりな賛歌のように感じられる。

ブライアン・メイ、アダム・ランバートと共に、21世紀を代表するロック・バンド、クイーンのメンバーであるドラマーのロジャー・テイラーは「この曲がすべてを物語っている」と語っている。

Written By Tim Peacock

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クイーン+アダム・ランバート『Live Around The Wld』
2020年10月2日発売

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