【高校野球】「通過点に過ぎないはず…」 関東一・米澤監督が語る、甲子園の魅力と弊害

関東一・米澤貴光監督【写真:荒川祐史】

あまりに大きい甲子園の存在に、野球そのものの魅力を伝えられないジレンマ

今夏の東京都独自大会で、東東京準優勝を果たした関東一。甲子園の中止と、ベンチメンバー入れ替え制が採用された独自大会。変わっていく高校野球の今後を、米澤監督はどう見たのか。

「終わってみると、やっぱり成長の遅さを実感しましたね。僕が普段選手に『目標を持ってやれ』と言ってることの意味が僕自身すごくわかった。3年生だけでなく、2年生も1年生も全学年でうまくなる時期をなくしたなと感じています」

コロナ禍で目標としてきた甲子園が中止となる前から、米澤監督自身、甲子園の存在があまりに大きい高校野球の現状に、思うところがなかったわけではない。

「今の高校野球だとあまりに甲子園が大きすぎるなと。一方でそれが甲子園の魅力で、だからこそ野球界が発展していることもわかっている。甲子園という目標によって選手が大きく成長することはわかっていますが、それによって野球そのものの魅力を伝えきれていないとも感じています」

すべてが例年と異なった今年、関東一は3年生中心の大会と位置付け、控え選手も積極的に起用した。例年であれば出られなかったはずの選手にとってはまたとない機会となったはずだが、ベンチメンバーの入れ替え制には複雑な思いもあったという。

限れられた18人のメンバーに入ること、そこから漏れることの意味

「柔軟な対応にも、いい部分とそうではない部分があると思う。20人に限定されることで、そこに入るか入らないかは18歳の選手にとってかなり大きな出来事ですし、毎回悔し涙を流す子もいる。テストとも違って他人に評価されることなので、努力だけではどうしようもないことを知りますし、それがこの先の人生を生きる上での強さにもなると思うんです。全員がベンチ入りすることには果たして価値があるのか。甲子園出場も競争、メンバー入りも競争。競争が一概に悪いとも言えないと思う」

もちろん、きれいごとばかりではない。これまで、腐って練習に来なくなる子もいれば、「早く負けろ」と口に出してしまう子も見てきた。それでも、なかには大学や社会人でも野球を続け、卒業後程なくして野球を辞めてしまったレギュラーメンバーよりもずっと充実した野球人生を送った者もいたという。

「5年後にどうなっているかはその子次第。甲子園がピークにならないように、単なる通過点にすぎないんだよということはずっと言ってきましたが、今の甲子園の在り方では高校生にそこまで言って聞かせるのもなかなか難しいものがありますね」

甲子園は通過点に過ぎないという一方で、伝えていかなければならない伝統もあるという。「これだけ長く続いていることには、いいものもたくさんあると思う。まだ見えていないものも。指導者として、そういうものを見つけたいし、それを次の世代につないでいくことが僕ぐらいの年齢の指導者の役目だと思ってる。彼らが親になっても子どもたちに野球をやらせたくなるような、観る側になっても応援したくなるような魅力をね」

現在44歳、甲子園常連校の監督の中ではちょうど中堅の年齢に差し掛かる。過去と現在、変わっていく高校野球に様々な思いを抱きながら、信念を抱いてノックバットを振るう。(佐藤佑輔 / Yusuke Sato)

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