事故で右脚失った警察官 夢絶たれ、涙流した日々 逆境乗り越え「必ず現場に」

企画指導係として自動車警ら隊員のサポートをする柴田さん。今はデスクワークだが「将来は必ず現場に戻る」と語る=長崎市田中町、自動車警ら隊本隊

 長崎県警自動車警ら隊の柴田幸成巡査(24)は約2年前、特別派遣先の福島県で交通事故の処理中、トラックに追突される事故に遭い、右脚を失った。将来への不安や白バイに乗る夢が絶たれた無念さで涙を流した日々。義足装着のためのリハビリで出会った高校生の姿に勇気づけられて逆境を乗り越え、今は「必ず現場に戻る」と奮闘している。
 長崎市田中町にある県警自動車警ら隊本隊。柴田さんはいつものようにパソコンの画面に向かい、データを入力していた。昨年8月から、企画指導係として隊員の働く環境や車両の管理などを担う。いわば最前線で働く隊員の「縁の下の力持ち」。体を動かしたり現場で住民と直接触れ合う機会がほとんどないデスクワークは、「性に合わない」と冗談交じりに話す。その笑顔からは想像できない苦難の経験を口にした。
 機動隊員だった2018年10月、東京電力福島第1原発事故で原則立ち入りができない福島県の「帰還困難区域」に警戒警らのため特別派遣された。10月30日深夜、双葉町の国道で交通事故の処理中に背後から中型トラックに追突された。柴田さんの右膝下は、5カ所で骨が体外に突き出る開放骨折。「事故の状況を把握し伝えられるのは自分だけ」との使命感で何とか意識を保った。
 人が住んでいない地区のため“近く”の病院への救急搬送に約2時間。福島では骨を金属で固定して神経を移植する「再建手術」をし、治ると信じていた。しかし、転院先の長崎大学病院で「脚を切断するしかない」と告げられた。11月15日、約5時間の手術で右脚が膝上から切断された。

右脚を失い、リハビリを始めたばかりの柴田さん。悲観的になり、真剣に取り組むことができなかった=2018年12月、長崎市内(本人提供)

 「白バイに乗れない体になってしまった」。警察官として、交通事故が県民に一番身近なことと考えていた。どのように取り締まれば死亡事故がなくなるかが自身のテーマ。交通の仕事を一途に希望し、夢は白バイ隊員になることだった。
 夢が絶たれ、将来への不安が襲い涙を流した。約65キロあった体重は脚の切断後、40キロ後半まで落ちた。
 「自分だけ…」と悲観的になり、リハビリにも真剣に取り組めずにいた時、前を向くきっかけをくれたのは一人の男子高校生。義足を着けてリハビリに励んでいた18年12月中旬、同じように義足でリハビリをする彼は明るく、前向き。ふさぎ込んでばかりの自身の姿を振り返り、「最初から諦めていたのかも」と気付いた。話したこともない彼の姿に心打たれ、少しずつ前を向けるようになった。  19年8月に職場復帰。以来「現場に戻り、住民と直接関わりたい」という強い思いは変わらない。だが、走ったり坂を上ったり、現場の警察官に必要な動きはまだ難しく、理想と現実のはざまで自分に何ができるか模索している。「一日一日頑張れば現場に近づく」と信じ、ストレッチや散歩にコツコツ努力を重ねる。「事故の痛みを知るからこそ、住民に寄り添える警察官になれる」。その言葉に力がこもっていた。

 


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