ホイチョイ映画「波の数だけ抱きしめて」1982年の夏は大滝詠一と山下達郎 1991年 8月31日 ホイチョイ映画「波の数だけ抱きしめて」が劇場公開された日

ホイチョイ青春3部作 第3弾「波の数だけ抱きしめて」

バブル真っ只中の1991年、ホイチョイ・プロダクションが『私をスキーに連れてって』『彼女が水着にきがえたら』に続く、青春3部作の第3弾として放った映画が『波の数だけ抱きしめて』。舞台は1982年の湘南、時代を9年遡る設定だ。中山美穂が演じる都内のミッション系大学に通う女子大生が、地元茅ヶ崎のビーチで友人たちと一緒にミニFM局Kiwiを運営する… そんな物語だった。

大滝詠一「A LONG VACATION」と 山下達郎「FOR YOU」

FM放送の話ということで、映画では当時のAORの代表曲が全編に渡って流された(Kiwi FM オリジナル・サウンドトラックとして発売されている)。ところが、久し振りに映画のパンフレットを出してきたら、思わぬ発見があった。そこにはFM局Kiwiのランキングボードの写真が載っていたのだが、意外なことに、TOP20の中にAOR以外のジャンルが何曲も入っている。そして、その中に日本の曲が2曲も。大滝詠一と山下達郎だ。

これまで本サイトで僕が取り上げたアーティストや楽曲は、ほとんどがいわゆる “洋楽” である。実際、学生時代に女子を隣に乗せてドライブする時、クルマの中で流す音楽はほとんど洋楽だった… と言うか、正直、日本の曲を流すことはあまり考えなかった。しかし、何事にも例外はあるもので、大滝詠一の『A LONG VACATION』と山下達郎の『FOR YOU』だけは僕のクルマの中に常備されていた。70年代から洋楽を聴きまくってきた僕の耳にも耐えられる… いやいや、それ以上のクオリティだったからだ。

80年代の夏に不可欠、イラストレーターは永井博と鈴木英人

1981年3月21日にリリースされた『A LONG VACATION』と1982年1月21日にリリースされた『FOR YOU』は、どちらもトータルアルバムとして質が高く、共通点も多い。『A LONG VACATION』のジャケットはプールサイドをモチーフとした永井博のイラストで、当時は「ジャケットで売れた」とも言われていた。『FOR YOU』は西海岸をイメージした鈴木英人のイラストだ。80年代の “夏” に、この2人のイラストレーターの存在は不可欠だと心の底から思う。

『A LONG VACATION』はA/B面に5曲ずつ収録されているが、両面とも4曲目にコミカルな曲を入れてアルバム全体の流れに緩急をつけている。『Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語』と『FUN×4』だ。『FOR YOU』では、『INTERLUDE』という短いアカペラをA/B面に2回ずつ挿入することで、やはり全体の流れに緩急をつけている。だからどちらのアルバムも、A面の最初からB面の最後まで、元の順番で通して聴いた方が絶対にいい。

それにしても、ジャケットの話も、緩急の話も、いかにもアナログ時代ならではの話。でも、デジタル時代になって、こういうのを味わえなくなったのは、やっぱり少し残念だなぁ。

※2016年7月19日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 中川肇

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