正面で捕る

 〈攻撃では1人の打者の力で3点も4点も挙げることは非常に難しいが、守備は1人のミスが大量失点の引き金になる〉…プロ野球の中日、巨人で長くプレーし“守備の職人”として知られた井端弘和さんが著書「内野守備の新常識」で守りの大切さを力説している▲その守備の基本は「正面で捕ること」。もっとも、同書ではそこに〈無理して打球の真ん前に体を入れる必要はない〉と井端流の新解釈が加わって、やや難解なのだが▲野球の技術書を読んで、そういえば安倍晋三首相は「守り」の苦手な人だった、と考えるのは飛躍が過ぎるだろうか。閣僚の不祥事、自身にまつわる疑惑、施策の迷走。守勢に立たされるたび、彼は逆ギレ気味の強弁や、問題のすり替えを多用してきた。批判を正面から受け止めて話す姿の記憶がない▲退任意向を明かした28日の会見。全ての質問にきちんと答えが返ってきたとは言い難いが、質問者と対話を試みる姿勢はこれまでになく伝わってきた。最後の最後にようやく▲この週末、一気に加速を始めたポスト安倍を巡るレースは本命不在の混戦模様だ。有力各氏の動向から目が離せない▲いまだ途上の感染症対策、国民の不安や不満、超長期政権の正負の遺産-それらを正面から受け止め、誠実な言葉で語るのは誰だろう。(智)

 


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