音楽番組から見る若者のテレビ視聴動向と、配信時代の連ドラ枠の役割

月刊TVガイド10月号/東京ニュース通信社刊

今回は関東52万台超えの東芝レグザ視聴データによる「ライブ率(リアルタイム視聴)」「再生率(タイムシフト視聴)」「延べ再生率(複数回再生をすべてカウントした値)」「総合接触率(ライブ視聴とタイムシフト視聴の合算)」の四つの指標で、番組をひもといていく。初めに、テレビ離れがささやかれる若者の視聴動向を、夏の大型音楽番組を参考に探ってみよう。

まずは、7月18日の「音楽の日2020」(TBS)。中居正広と安住紳一郎アナウンサーが司会を務める夏恒例の長時間音楽特番だが、この日は生放送中に三浦春馬さんの訃報が速報として流れて視聴者も大きなショックを受けた(午後5:24過ぎの中断ニュースの再生率が上がっているのも象徴的だ)。それに伴って大きな注目を浴びたのが、親友・城田優が涙を流しながら「キセキ」を歌い上げた7:12頃のシーン。歌詞が城田の心情に重なり、SNSなどでも話題となったことで、特に延べ再生率が大きな伸びを示し、番組中でも最高の総合接触率を示した。

そして、特に若者層の支持を集めたのが、延べ再生率が大きな伸びを示した三つのシーン(グラフに赤丸で表示)。7:30半頃の山は、SixTONESとSnow Manの登場シーン。8:00過ぎはKing & Prince。そして、9:00過ぎの山はファンが選ぶディズニーソングメドレーである。この三つのコーナーを多く視聴したのがティーン(男女 13~19歳)とF1(女性 20~34歳)、M1(男性 20~34歳)の若者層である。先ほどの城田の歌唱シーンや、11:00過ぎの嵐と中居の共演シーンなどは、比較的広い層でまんべんなく支持されているが、この三つのコーナーは若者層の支持が顕著だった。特にディズニーメドレーのコーナーは、ライブ視聴でもポイントを伸ばし、番組全体でも2番目に高い総合接触率を獲得した。乃木坂46の生田絵梨花が欠席し、急遽久保史緒里がピンチヒッターで歌ったり、城田がISSAと「リメンバー・ミー」を披露したりと見どころも多かった。

続いて6日後の7月24日に放送された「ミュージックステーション 夏の3時間半SP」(テレビ朝日)でも興味深い結果が得られた。人気アーティストが多数出演したこともあり、午後8:00過ぎの嵐の「IN THE SUMMER」あたりから、ずっと高い総合接触率を維持しているが、中でも若者層の圧倒的な支持を得ていたのが、9:00前後、TikTokのカバー動画をきっかけにブレークした瑛人の「香水」テレビ初披露である。総合接触率では、例えばその後の三浦春馬さん「Night Diver」のPVの方が上回っている(特に延べ再生率が群を抜いている)のだが、ティーン、F1、M1層に限れば瑛人への注目が高かった。また7:00台の「もう一度見たいディズニーソングBEST10」のコーナーの再生率が押しなべて高いが、ここの数字を支えているのも若者層だ。ティーン、F1、M1層のディズニー人気は根強いと言える。

もう一つ、8月8日に放送されたNHKの「ライブ・エール(第2部)」についても検証した。GReeeeNの「星影のエール」初披露、内村光良のピアノ披露、三浦春馬さんと番組で共演していたJUJUの「やさしさで溢れるように」、そして松任谷由実とオールスターによる「(みんなで)やさしさに包まれたなら」と話題も多かったが、若者層ではほとんど数字は動いていない。出演陣の年齢層を考えると仕方ないところかもしれない。

デジタルTVガイド9月号(東京ニュース通信社刊)

新型コロナウイルスの流行は、日本のテレビドラマにも大きな影響を与えた。通常の収録を行うことができず、各テレビ局はさまざまな対応を迫られた。NHKの連続テレビ小説「エール」や大河ドラマ「麒麟がくる」も、通常の放送を続けることができずに中断を強いられた。民放各局も同様で、過去の人気ドラマを「特別版」などのタイトルでリピート放送するなどの対応が多く見られたが、中には視聴者から大きな支持を得るなど、予想外の結果も得られたようだ。ということで続いて、東芝レグザの視聴データによる合計値(ライブ視聴と録画再生の合算)を使って、4月以降の各ドラマ枠の対応を放送局ごとに分析。そこから配信時代のテレビドラマが果たす新たな役割のヒントを探っていこうと思う。(集計期間:2020年4月6日~8月9日)

(なお今回は、プライムタイムの新作ドラマ枠で放送されたリピートドラマのみを対象にした。「愛していると言ってくれ」や「JIN-仁-」など、土・日曜の午後帯を中心に放送され話題となったリピートドラマも多くあったが、そうしたリピートのされ方は、例えば近年年末年始に多くのドラマが全話放送されているように、こうした非常事態でなくても行われており、既存のドラマ枠で多くのリピートドラマが放送された今回の事象とは別物と考えられるためである)。

取り上げたのは深夜帯を除くプライムタイムの12枠である。7月に入って各局で新作ドラマ(主に4月クールとして予定されていたドラマ)の放送が始まり、全体に数字が上がっている。ひときわ飛び抜けているのはTBS日曜9時の「半沢直樹」の新作で、桁外れの強さを誇っていることが分かる。では放送局別に見ていこう。

まずは日本テレビ。6月半ばのスタートとなった「ハケンの品格」新シリーズがさすがの強さを発揮しているものの、全体を見渡すと各時間枠でリピートドラマが健闘。新作につながる「春子の物語」(「ハケンの品格」第1シリーズの特別編)、SNSで話題を呼んだ「野ブタ。をプロデュース」や「ごくせん」の第1シリーズなど、ほかの新作に匹敵する数字をたたき出しており、今回局としてリピート対策に最も成功したと言える。特に「野ブタ。をプロデュース」は約15年前の作品でありながら現在でも十分通用するテーマを描いており、豪華な出演陣の劇中の若さが図らずも作品の先見性を表すというリピート放送ならではの効果も導いた。

TBSは、なんと言っても7月スタートの「半沢直樹」新シリーズの飛び抜けた数字が目立つ。ライブ視聴、録画再生視聴の双方が破格のポイントで推移しており、まさに別格。無論コロナ禍の反動もあるだろうが、これは純粋に作品の力と判断すべきだろう。また「半沢直樹」ほどではないが、「私の家政夫ナギサさん」 「MIU404」の二つの新作も非常に高いポイントを得ている。「逃げるは恥だが役に立つ」や「99.9」などのリピート作品も高評価を得たが、TBSではやはり新作ドラマへの支持の方が高いという結果となった。

続くフジテレビは他局にSPべて変則的な放送となり、月曜9時は「SUITS/スーツ2」を2話放送して放送延期。火曜9時は当初4月放送予定だった「竜の道 二つの顔の復讐者」が延期となり、撮影終了していた6月開始予定の「探偵・由利麟太郎」が予定通り放送され、その後に「竜の道」放送と順序が逆に。木曜10時の「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」は放送開始が7月まで延期と、枠ごとに異なった対応となった。「SUITS2」中断後月9枠では、「コンフィデンスマンJP」「鍵のかかった部屋」「やまとなでしこ」と人気作が続々放送され、“月9”の底力を示したが、火曜10時、木曜10時ではリピート放送による特段の効果は得られていない。4月の「SUITS2」、7月の「アンサング・シンデレラ」と新作の合計値は高いが、「SUITS2」に関しては約3カ月空いた放送再開後は以前の水準には届いていない。

テレビ朝日は3作ともシリーズ物ということもあり、すべて同シリーズの傑作選で空白を埋め、他局のようなリピート戦略はとっていない。逆にいえば、成熟したブランディングができているということでもあり、安定していたといえば安定していた。グラフでも「BG~身辺警護人~」の新作のみが高いポイントを示している。

では今回最も成功したリピートドラマは何だったのか。次の表は、各リピートドラマを総合合計値の平均が高い順に並べたものである。

「半沢直樹 特別総集編」はおそらくコロナ禍の状況でなくても放送されたものだろうし、例外と考えると、「ごくせん」「逃げ恥」「99.9」あたりが勝ち組というところ。納得のベスト3と言える。表内の「放送枠平均値」というのは、期間内の新作・リピート作含めた時間枠の総合計智の平均である。作品ではなく時間枠の力を測る指標と言っていいかもしれない。その「放送枠平均値」の順位を出してみると以下のようになる。

トップに立ったのはTBS日曜9時枠(「半沢直樹」ほか)。破格の数字で突っ走る「半沢直樹」の新作の数字も含んでいるので当然といえば当然だが、2位のTBS火曜10時枠(「私の家政夫ナギサさん」ほか)と比べると、さほど差がないことが分かる。「半沢直樹」がなければこちらが余裕でトップだったろう。日本テレビ水曜10時枠(「ハケンの品格」ほか)も僅差で迫っている。新作の話題性に左右されないこんな時期だからこそ、(シリーズの刑事もので固定ファンを囲い込むテレビ朝日とは別のやり方で)時間枠のファンを育てていくことの大切さが際立つ。終わったばかりの「恋つづ」の特別編を5週間も放送した後に「逃げ恥」をぶつけてくるTBS火曜10時枠の徹底ぶりは評価されるべきだと思うし、日本テレビ水曜10時枠がここ数年地道に積み重ねてきたラインアップの充実はドラマファンには確実に届いている。日頃のドラマ枠のブランディングへの努力は、こうした非常時にこそ力を発揮されるということが分かる。

そこでもう一つ、新しい指標を試みる。ドラマ平均値を放送枠平均値で割った数字を出してみた。おのおののリピート作品が枠の実力からいかに飛躍しているかを示すもので、ここでは「枠内飛躍率」と名付けてみた。そのランキングが以下である。

こちらでは「ごくせん」が「半沢直樹」を抜いてトップ。総合的にこれが今回のリピートドラマの中で最も成功した作品と言ってよさそうだ。そしてこの指標で、ぐっと順位を上げてきたのが「やまとなでしこ」と「鍵のかかった部屋」のフジテレビ月9組である(特に「やまとなでしこ」は、久しぶりの再放送だったこともあり待望の声が多く集まり、「愛していると言ってくれ」と同様初めて見たという若い世代の間でも話題となった)。いわば、枠の力を借りずに自力で数字を稼いだドラマということになる。

現在配信によるドラマが話題になり、放送によるテレビドラマは大丈夫なのかという声が大きくなっている。特にリアルタイム視聴が少なくなる中、時間枠に意味はあるのかとの声もある。だが、自由にタイムシフト視聴ができる環境が増えてきた今こそ、毎クール積み重ねることでしか作れない時間枠の持つブランディングが力を発揮するのだ。ブランディングは一朝一夕にはできない。終わったばかりのドラマがすぐさま再放送されている隣りで、20年以上前の名作ドラマが平然と放送される。長い歴史を持つテレビだからこそ生み出せるメッセージがあることを、コロナ禍の混乱が教えてくれたような気がする。

文/武内朗
提供/東芝映像ソリューション株式会社

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