『宇宙でいちばんあかるい屋根』みずみずしい思春期もの

(C)2020『宇宙でいちばんあかるい屋根』製作委員会

 『新聞記者』の俊英・藤井道人の新作だ。一転して今度は思春期もの。野中ともその同名小説を原作に、14歳のヒロインの中学最後の夏休みが描かれる。継母の妊娠がもたらす家族関係の変化や隣の大学生への恋心に揺れる彼女は、キックボードで星空を舞う不思議な老婆と出会い…。ファンタジー要素こそあるものの、至って王道でみずみずしい。

 例えば、制服と自転車、手紙と郵便受け、自分だけの秘密の場所=屋上(見上げる、見下ろすという行為)、水溜まりやガラスへの映り込み…。とりわけ、藤井監督お得意の“窓”を使った演出がふんだんで、中でもクライマックスの糸電話のシーンをほぼヒロインのアップだけで見せる手腕には、その洗練には鳥肌が立った。

 でも、だからこそ言いたい。この映画には、(露骨な)CGは不要だったと。糸電話や水溜まりなどにもCGは使われているが、こちらはCGというより演出の創意工夫で、それ故にみずみずしい世界観に溶け込めているのだから。とはいえ、それも些末な問題。ヒロインが“屋根”へと向かって階段を駆け下りる鮮やかな1カットだけで、この映画を全肯定したくなる。藤井監督は確かに、前作『新聞記者』によって一般レベルにまで認知されたわけだが、社会派やサスペンスよりもむしろ青春映画を撮る方が格段にうまい気がする。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:藤井道人

原作:野中ともそ

出演:清原果耶、桃井かおり

9月4日(金)から全国公開

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