前回は、コロナ禍の中で都内のホテル・民泊経営者として直面した苦境と、業界として意外に豊富なキャッシュフローがあることを書きました。
今回は、私のような小規模ホテル経営者が、コロナ禍をどう乗り越えていくのかということを記したいと思います。
負債となった空間を活用する
長引くコロナ禍によって、かつてない苦境に立たされている宿泊業界ですが、負債となった空間をなんとか利用し、巻き返しを図ろうという動きが始まっています。
コロナ渦で全く新しい新規事業を始めるケースも目立っています。リモートワーク(在宅勤務)やマンスリーマンションなどの居住需要を上手く取り込んだり、オンライン宿泊の様な新しい宿泊の形を模索したりする動きが出ています。
特に、このような新しいアクションは、小回りがきき、固定費が少ない小さな企業や個人が目立ちます。情報が少しでも欲しい経営者たちは、その結果に多いに注目しています。
単月でギリギリ黒字化
実は、私の会社では、7月のみギリギリ単月の黒字化となりました。現在、観光宿泊者の売上はほぼない状態ですが、時間貸しなどの別の需要にも注力することで施設をなんとか稼働させることができました。
一般的に、ホテルのマネタイズは、宿泊、飲食、ブライダルがメインと言われます。一方で、僕らのような小規模の事業者には、「宿泊」しかありません。しかしながら、この渦中でわざわざ出張や観光のために宿泊する人はいません。
そこで、この宿泊の単位を分解していきました。1日単位ではなく、時間単位での販売、つまり「時間貸し」に挑戦しました。
コロナ渦では、都心部では想像以上にクローズドな空間のニーズがあることがわかりました。一般的なパーティーやリモートワークではなく、読書会や勉強会、IT機器の保管場所などに使われるケースもありました。これらのニーズの多様性は、やってみるまで全く気づかないものでした。
逆のビジネススタイルも
逆の考え方も可能です。1日ではなく、1週間、1ヶ月、1年、つまり「居住」です。
今回、「unito」 というサービスを行う企業から声がかかり、弊社の物件の多くで使わせて頂きました。外泊と居住、両方の形で利用可能な物件を提供する新サービスです。
現在、海外からの帰国者は、空港などでPCR検査を行い、陰性結果が確認されたのち、14泊15日間の待機をしなければなりません。この待機場所を提供する新たなプランに、物件を提供しています。
このニーズはかなり大きく、airbnbよりも単価が高い場合が多いにも関わらず、民泊系の空室はほとんど埋まりました。物件によっては、稼働率が90%を越えたところもあります。
ハコモノ事業者がコロナ禍で生きるためには?
ハコモノ事業では、賃料が集客費に織り込まれています。そこそこの立地にハコを作れば食べに来る。ハコを作れば泊まりに来る。さらに集客用のプラットホームは、従量課金の素晴らしい仕組みができているために、ホテル事業者は深く考えずとも、当然の集客が前提で事業ができてしまっていたのです。
そのような当然の前提を一旦置いておいて、自らが提供している「ハコ以外の」サービスの因数分解をすると良いかもしれません。
まずは最小限の負担で回す仕組みの改善で「時間」を作る
外部のサービスを使い、固定費を最小限に絞っていくと、事業に関わらなくても良い「時間」ができます。コロナ禍による融資で得たキャッシュに手をつけるのではなく、この生まれた「時間」でマネタイズが可能です。
「時間」さえ生み出してしまえば、書籍を書いたり講演をしたりコンサルをしたり、労働集約的なマネタイズに奔走してでもマネタイズは可能です。
例えば、私たちが提携していたホテル・民泊の清掃会社さんの例があります。コロナで本業の売り上げはほとんどなくなり、清掃と関係のない業種にシフトしました。“ステイホーム”で大きく伸びたEC事業です。
清掃会社が始めたEC事業がうまくいっているワケ
元清掃員たちがリネン庫でECの卸業を始め、既に7月で単月の黒字化に成功。現在は、卸業で得た知見を元に大手企業へのタイアップ提案やメーカー化の仕込みを行なっているとのことです。
「清掃員」と聞くと、マニュアルチェックポイントに沿って、適した清掃道具を使い、効率的に行う清掃能力の高さがすべて、と思われるかもしれません。しかし、民泊のような無人の施設の清掃となると、清掃能力以外にも「問題解決能力」が求められます。
民泊では、無人かつ文化の全く異なる方が団体で宿泊しているケースが多いため、通常のホテルでは考えられないようなことが起こります。その場合、現地で唯一、直接的にゲストとコミュニケーションをする清掃員が対応することがあります。
例えば、当日のチェックインアウトがあるのに、ベッドや水回りに故障が見つかった場合、ダブルブッキング時に空室が1室しかない場合など。自ら周辺ホテルを探し、客の了解を得て予約、現地までお連れするというように、ゲストの意向を汲み取りながら対応をして頂いたりしました。
この会社の従業員は、日常的に、問題の発見や解決、改善のため仕組みを考えることを行っていました。だからこそ、柔軟に新事業に取り組み、成功したのだと思います。普段、清掃や改善の際に利用しているITツールや仕事に対する考え方さえあれば、今はスキルを簡単にマネタイズできる沢山のプラットホームが身近にあります。
このような清掃会社のオフィスが…
すっかりオフィスに変わった
ハコに依存しない
赤字になり、収益を産む母体だった「ハコ」に依存していると、住居利用や時間貸しをアイデアとして考えたくなります。一方で、収益を産む母体が「ヒト」の会社はいくらでも動けるので、特に観光分野にこだわる必要もないのです。
収益を産むのも、赤字になるのもヒトです。ハコが動かせないならヒトのポテンシャルを活かし、ヒトを動かせないならハコの再定義をする。なんとかコロナ渦を乗り越えていきたいと思います。