鷹・柳田は“無双状態”、貢献光る23歳左腕の“オープナー”…セイバー指標で見る8月のMVPは?

ソフトバンク・柳田悠岐【写真:藤浦一都】

ソフトバンクとロッテが16勝8敗と貯金を増やした8月

新型コロナウイルスの影響で約3か月遅れて開幕したプロ野球。8月を終えて各球団がほぼ60試合超を消化し、シーズンの折り返し地点を迎えたことになります。そこで、ここではセイバーメトリクスの視点から8月のMVPを選出してみましょう。

まず、8月のパ・リーグ各球団の月間成績は以下の通りだ。

1 ソフトバンク 16勝8敗
打率.235 OPS.726 本塁打34 援護率4.66
先発防御率2.61 QS率36.0% 救援防御率2.92

2 ロッテ 16勝8敗
打率.251 OPS.752 本塁打25 援護率5.02
先発防御率4.34 QS率46.2% 救援防御率3.79

3 日本ハム 13勝11敗
打率.277 OPS.751 本塁打21 援護率5.20
先発防御率4.04 QS率40.0% 救援防御率4.53

4 楽天 12勝12敗
打率.269 OPS.763 本塁打23 援護率4.65
先発防御率3.74 QS率46.2% 救援防御率5.04

5 西武 9勝15敗
打率.255 OPS.728 本塁打27 援護率3.78
先発防御率5.06 QS率32.0% 救援防御率3.81

6 オリックス 6勝18敗
打率.236 OPS.647 本塁打11 援護率2.44
先発防御率4.78 QS率36.0% 救援防御率3.87

7月のパ・リーグが混戦だったため、8月の成績がソフトバンク、ロッテの上位グループ、楽天、日本ハムの中位グループ、西武、オリックスの下位グループそのものを形成する形となりました。

ソフトバンクは先発、救援ともに防御率2点台と投手陣が活躍、ロッテはOPS.752、援護率5.02と打線が牽引するという、両チームのコントラストが際立ちました。なお、8月の両チームの直接対決はロッテの3勝2敗1分でした。

1位のソフトバンクと6位のオリックスはチーム打率だけ見ればほぼ互角に思えますが、OPS、本塁打数に大きな開きがあり、長打力の差が歴然と得点力に反映されています。両チームには柳田悠岐、吉田正尚という日本を代表する主軸バッターがいるのですが、ソフトバンクは中村晃、グラシアルがその前後を固める打線を組んでいます。

オリックスは吉田正の前後を打つ打者の不調が響き、吉田の打撃を活かせていない状況です。8月20日の試合を最後に西村徳文監督が辞任し、中島聡2軍監督が監督代行として指揮を取ることになりました。就任してから杉本裕太郎、松井佑介、西野真弘などを昇格させ、新たな打線を組んでいますが、後半戦、その効果は表れるのでしょうか。

ソフトバンクの柳田はOPS、本塁打、長打率でパ・リーグ月間1位

そんなパ・リーグの月間MVPは9月9日に発表される予定ですが、ここでは、セイバーメトリクスの指標による8月の月間MVPを選出を試みます。

・8月月間MVP パ・リーグ打者部門

打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりもどれだけその選手が得点を増やしたかを示すwRAAを用います。

各チームのwRAA上位3名は以下の通りです。

西武 スパンジェンバーグ6.75 メヒア6.63 外崎修汰4.07
ソフトバンク 柳田悠岐12.27 グラシアル4.16 栗原陵矢3.70
楽天 鈴木大地9.88 ロメロ6.95 浅村栄斗6.91
ロッテ マーティン10.21 井上晴哉7.44 中村奨吾7.42
日本ハム 中田翔7.93 近藤健介7.67 渡邉諒7.27
オリックス 吉田正尚12.06 ジョーンズ5.00 福田周平0.65

おとなしくなっている西武打線ですが、8月はスパンジェンバーグ、メヒアといった外国人打者がその打線を牽引しています。鈴木大地は月間41安打という楽天の球団記録を塗り替える活躍で、チーム1位の貢献度を記録しました。ロッテ貢献度1位のマーティンは、落合博満以来の月間10本塁打を放ちました。

日本ハムは月間得点127、援護率5.20とリーグ1位の打撃成績を残していますが、大田泰示の7.23も含めwRAAチーム上位4人すべて7点台という安定した打線が組めているのが強みと言えるでしょう。公式の月間MVPでは、月間打率.430、出塁率.510の吉田正尚、月間打点31の中田翔が有力候補となりそうですが、セイバーメトリクスの指標によるMVP打者部門は柳田を選出します。

柳田悠岐(ソフトバンク)wRAA 12.27
打率.315(リーグ9位)OPS1.119(リーグ1位)本塁打10(リーグ1位)出塁率.423(リーグ6位)長打率.696(リーグ1位)

とにかく、ストライクゾーンにきた球の80%以上をスイングし、ボール球には手を出さないという見極めが素晴らしく、ボールを遠くへ飛ばす技術も天下一品と、無双状態となっています。

ソフトバンク・笠谷俊介【写真:藤浦一都】

ソフトバンクが笠谷の先発で用いる“ピギーバック”という新たな運用方法

・8月月間MVP パ・リーグ投手部門

投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標RSAAを用います。ここでのRSAAはFIPベースで算出します。

各チームのRSAA上位3名は以下の通りです。

西武 宮川哲3.16 平井克典2.98 増田達至1.37
ソフトバンク 笠谷俊介4.95 石川柊太3.72 千賀滉大3.47
楽天 松井裕樹3.41 福井優也2.01 安樂智大1.51
ロッテ 二木康太4.77 益田直也4.05 ハーマン3.26
日本ハム 有原航平4.65 バーヘイゲン4.00 上沢直之3.17
オリックス ヒギンス2.26 アルバース0.78 漆原大晟0.68

月間4勝0敗で公式の月間MVPの有力候補に挙がるロッテ石川歩がチーム上位3名に入っていませんが、これは月間の奪三振が9、奪三振率3.12、被本塁打2となっており、奪三振、与四死球、被本塁打のみで測るFIPベースの指標では低く評価されてしまうからです。なお、ロッテの投手陣は今月のRSAAランキング上位15位までに6人の投手(上記の3名の他、唐川侑己3.04、美馬学2.58、小島和哉2.47)が含まれています。石川はそれに次ぐチーム7位です。

今季のロッテは吉井理人投手コーチによる登板スケジュールの管理が徹底しており、今季3連投の投手はまだ1人もいませんし、6連戦において4試合以上登板した投手もいません。また先発投手の運用についても8月30日現在、シーズンQS率46.8%はリーグ1位ですし、先発投手のイニング数360、先発投手が6イニング以上投げた割合61.3%もリーグ1位となっています。救援投手陣に負担をかけない運用を心がけているのです。

8月のパ・リーグRSAAランキングで1位となったのは、ソフトバンクの笠谷俊介です。笠谷は8月に5回先発していますが、そのうち3回は、2人の投手でほぼ試合を作る“ピギーバック”という運用方法が活用されています。

8月6日 先発 笠谷俊介 2回1失点(自責点0)
2番手 板東湧梧 3回0失点(勝ち投手)

8月9日 先発 笠谷俊介 2回0失点
2番手 板東湧梧 4回0失点(勝ち投手)

8月20日 先発 笠谷俊介 4回0失点
2番手 松本裕樹 3回2失点(自責点2)

「先発投手は5イニング以上投げなければ勝ち投手の権利を得ることができない」というルールにより、笠谷に勝ちがつくことはありませんが、イニングを限定することで集中して打者と対戦して結果を残すことができ、チームとしても、2人の先発投手で試合を作り、救援投手の負担を軽減させることができる、という利点を得ることができます。記録上、何もつかない笠谷ではありますが、チームとしてしっかりと評価・査定はされていることでしょう。

8月27日には先発登板した笠谷が5イニングを投げ失点1で降板後、2番手に板東が3イニング失点0でホールド、最終回は森唯斗がセーブし、笠谷に先発としての初勝利がつきました。笠谷が登板した8月の5試合の成績は以下のようになります。

笠谷俊介 RSAA 4.95
17回 防御率0.53 奪三振24 奪三振率12.71 被本塁打0
被打率.172 WHIP0.88 K/BB4.80 FIP1.53

このように素晴らしい内容となっており、月間の既定投球回数には到達していませんが、セイバーメトリクスによる8月の月間MVPとして笠谷俊介を挙げたいと思います。9月以降の運用方法についてはまだ定かではありませんが、いずれは先発としてQS、HQSを連発する投手に成長することを期待したいです。なお、規定投球回数以上の投手でRSAAトップは二木康太でした。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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