秋風は遠く

 思えば来る日も来る日も、その言葉を見聞きしてきた。この8月は気温35度以上の「猛暑日」が、一日も欠かさず列島のどこかであったという。8月の全ての日で観測されたのは初めてらしい▲県内でも8月14日に記録してから、猛暑日が何度か訪れた。コロナについ目が行きがちだが、8月の間に熱中症で救急搬送されたのは県内で516人(速報値)と過去最多だった▲9月も厳しい残暑が見込まれる。先日の小欄で、お盆の迎え火、送り火、花火、炎暑と、8月はいわば「火の月」で、やがて涼やかな風の季節に移りゆく-と書いたが、そう感じられるのはまだ先のことらしい。風は風でも暴風、強風が県内に吹き荒れた▲非常に強い台風9号は昨夜、猛烈な風雨を伴って本県に最も接近した。大潮と重なり、高潮の被害も案じられる。県と市町、利水関係者とが結んだ協定により「事前放流」したダムもある▲前もってダムの水を減らし、空き容量を増やしておく。豪雨災害が増えているのを受け、初めて取り組んだという。残暑への警戒はまだ解けず、大雨の備えにも気が抜けない▲途方もない勢力の台風10号も九州に迫るとみられる。終わらない夏といい、立て続けの嵐といい、油断禁物の9月初めは、そよそよと秋風が心地よい日をやけに遠く思わせる。(徹)

© 株式会社長崎新聞社