6分半待ち「赤信号」は鉄道由来

柳ヶ瀬トンネルの福井県側入口

 【汐留鉄道倶楽部】今年6月、福井県敦賀市近辺の旧北陸本線に関連する歴史が日本遺産に認定された。関西方面から滋賀・福井の県境を越え、敦賀に鉄道がやってきたのは1882年。当時の敦賀は「東洋の波止場」と謳われるなど大陸方面への交通の拠点で、鉄道開業が非常に重要だったことは想像に難くない。「新橋発・ベルリン行(敦賀~ウラジオストク間は航路)」なんて切符があったそうだ。

 戦後になり北陸本線は長大トンネルの新ルートへ変更され、旧ルートは1964年までに廃線に。多くは一般道路へ転用され、現在も古いトンネルや駅跡を見に行くことができる。その途中にある「柳ヶ瀬(やながせ)トンネル」がちょっとおもしろい。

 滋賀と福井の県境にあるこのトンネル、長さは約1350メートルで、開通時は日本最長。現在も使用されているトンネルとしては日本で2番目に古いそうだ。だが照明が少なくとても暗いため、ちょっと怖い場所に迷い込んだ気分。とはいえ「県道」だ…いや「険道」かもしれないが。

 元々は単線の鉄道用だったので、ふだん自動車で走るトンネルとは比べものにならないほど狭い。もちろん中ですれ違いはできないが、1キロ以上ある上、途中でカーブするため入口から出口は見通せない。うっかりすれば中で正面衝突事故に…。そこで現在は両側の入口に信号機を設置し、時間を区切って相互に一方通行にしている。

 だがその信号の待ち時間がやたら長い。確かに自動車で走ると、通り抜けるのに2分程度かかる。これを相互でやり、多少の余分を持たせると考えると、やむを得ないのか。しかし長い。待っている間に流れている音楽が一曲終わってしまうレベル。いったい何分待ちなのか…せっかくなので福井県警に聞いてみた。

信号待ちの車。左上に見える高架橋は北陸自動車道

 県警によると、感応式信号のため時間に幅があり、赤信号は最長で6分26秒だという。反対側の出口で待っている車がいない場合など条件が揃えば、最速で2分57秒で青になるらしい。逆に青信号は14秒~30秒しかないとのこと。もし信号待ちせず通り抜けられたら結構ラッキーだ。ちなみに「この待ち時間は日本最長でしょうか?」とも聞いてみたが「比べるものではないのでわかりません」とのこと…そりゃそうか。

 では万が一、内部で対向車と鉢合わせたらどうするか。狭く暗いトンネルを入り口までバックするのかと思えば、実は途中に待避所が2カ所設置あり、そこまでバックすれば(してもらえば)すれ違えそうだ。その待避所には「トンネル内が今どっち向きの一方通行なのか」を示す矢印だけの信号機があった。こんな設備も結構珍しいのでは。

 敦賀では北陸新幹線延伸開業が2023年春ごろに迫る。地元では柳ヶ瀬トンネルはじめ旧北陸線の鉄道施設を観光誘客につなげようと、「福滋県境・鉄道遺産回廊」として売り出し中。ぜひ足を運んでみてほしい。

 ☆加志村拓(かしむら・ひろし) 1992年生まれ。共同通信社記者。柳ヶ瀬トンネル内の待避所、ほくほく線や長崎本線のトンネル内信号場を思い出させますが、「特急(=対向車)の通過待ちごっこ」なんてしてはいけません。いっきに走り抜けましょう。

 ※汐留鉄道倶楽部は、鉄道好きの共同通信社の記者、カメラマンが書いたコラム、エッセーです。

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