F1技術解説ベルギー編:王者メルセデスの大がかりなアップグレード。気流最適化目指し新バージボード導入

 2020年シーズンここまでの7戦で6勝を挙げ、独走体制を築いているメルセデス。しかし開発の手を緩めることはまったくなく、ベルギーGPの初日フリー走行に大がかりな空力アップデートを投入した。まずは、控えめな変更部分から見ていこう。

 イギリス人エンジニアのマイク・エリオットが率いる同チームの空力開発部門は、フロントノーズ付け根のウイングレットを大きく前後に伸ばした(下の写真の黄色矢印参照)。このパーツの役割はノーズ脇を流れる気流を整え、さらに小さな渦流(ボーテックス)を起こして、表面から剥離させないことだ。

2020年F1第7戦ベルギーGP メルセデスF1 W11のウイングレット(左がベルギー仕様)

 より大きな変更は、バージボードである。今のF1でもっとも重要な、空力パーツのひとつと言っていいだろう。メルセデスはここに、大きな変更を加えた。まず前方からの気流が直接当たるモノコックとの取り付け部分が、より直立した形状になった(黄色矢印参照)。そしてその下にあるデフレクターはより小さくなり、取り付け位置も後方に移動している(赤矢印参照)。さらにバージボードとデフレクターを繋ぐ整流板は、5枚から4枚に減っている。

2020年F1第7戦ベルギーGP メルセデスF1 W11のバージボード(上がベルギー仕様)

 ではこれらは空力的に、どんな役割を担っているのだろう。
 バージボードの一番の役割は、フロントタイヤやフロントウイングが起こす乱流を外側に逃すことである。二番目の役割は、バージボードの上部と下部にボーテックスを発生させることだ。下部に起きるボーテックスにより、フロア下へ向かう気流がいっそう流れやすくなる。そして上部のボーテックスは複雑な形状の切れ込みに沿いながら、サイドポンツーンに流れ込む気流の速度をさらに増すことに貢献している。

 さらにフロア上に複雑に乱立するデフレクターは、ダウンフォース向上の役割も果たしている。

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