冷え込む転職市場 大間違いの行動 専門家がQA形式で回答

転職市場が冷え込む今、求職者は何をすべきか?(写真はイメージ)

 転職市場が急速に冷え込んでいる。厚生労働省が1日発表した7月の有効求人倍率(季節調整値)は7カ月連続マイナスの1.08倍となり、1倍割れの可能性が高まってきた。このような状況での転職はやはり無謀なのだろうか。それとも、いっそうの雇用悪化に備えて転職したい人は急いだ方が良いのだろうか。また、広がるジョブ型雇用・成果主義のメリットとデメリットは?――。これらの疑問について、『年収が上がる転職 下がる転職』の著者で経営人材のキャリア支援を手掛けるジェミニキャリアの山田実希憲・代表取締役CEOにQ&A形式で答えてもらった。

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 Q 転職市場が冷え込む今、まず何をすべき?

 A やみくもな転職は厳禁。自分の武器を知るべし。

 転職マーケットをはかる指標の一つに有効求人倍率がある。1人の求職者に対して、どれだけの求人があるのかを表しており、今年1月は1.49倍だった。それが7月には1.08倍まで下がっている。有効求人倍率にはハローワーク以外の求人・求職が含まれていないため、全体の景況感を推し量るには足りない要素もある。しかし一人の求職者にとっての求人数が0.4減少したことは、就業したい人にとっての選択肢が減って就職がしにくくなったという意味で、転職市場が冷え込んできたと言える。

 コロナ禍で叫ばれているニューノーマルは生活様式にとどまらず、企業の採用も変化させた。採用計画は一般的に、事業計画を実現するために必要な人員体制を逆算して立てられることが多い。しかし、先の見通しが立てづらくなったことで事業や採用計画そのものが見直されたり、内定取り消しや入社時期の変更を余儀なくされたりするケースも散見されるようになった。さらに企業にしてみれば、ある日突然仕事ができなくなってしまった状況になっても給与を払い続けなければならないわけである。人を雇用すること自体をリスクとして捉える企業や、社員が行っていた仕事を他社へ外注するケースも出ている。

 有効求人倍率が示しているように、求職者は半年前と比べても少ない選択肢の中から働く先を選び、また選ばれなければならない。このように就職がしやすいとは言えない環境下でキャリアを構築する際、やみくもに転職することはお勧めしない。

 今現在のご自身が取り組んでいる仕事で、どのような価値を発揮できているのか、またその価値は他業態でも生かせるものなのか。会社に対する貢献価値を明確にすることが最優先である。

 本来、目の前の仕事に真摯に向き合って実績を積むことでキャリアは構築されていく。コロナに限らず社会情勢の変化など、強制的なルールチェンジはこれからも起こりうる。変化することを前提とした柔軟なキャリアを自らがつくりあげていくことが必要だ。そのために行うべき転職活動とは、やみくもに求人に応募していくことではない。発揮してきた強みや個性、残してきた実績を言語化することこそが転職活動ということになる。

ホテルや旅館といった宿泊業は厳しさが続く(写真はイメージ)

 Q コロナ禍で避けるべき業界、有望な職業は?

 A 本当に重要なのは「会社の今の業績」ではない。

 日本政府観光局(JNTO)の発表によれば、今年5月の訪日外国人数は、前年同月比99.9%減の1700人。1-5月累計でも71.3%減となってしまった。東京五輪の開催を控え、インバウンド客の増加を見越していた飲食業やホテル、旅行業ではマイナス面の影響を大きく受けることになった。

 同じ業界の中でも大打撃を受けて立て直しができない企業と、被害を最小限にして事業を立て直している企業がある。また、ここ数年来事業が縮小傾向にあって、コロナがその進行を早めたケースも見られる。

 合理性や必要性が再検討されて、単純労働やロボットに代替される仕事は長く存続しない可能性が高い。働く会社を選ぶ際には、今うまくいっている理由、うまくいっていない理由を多角的に検討する必要性がますます高まっている。

 世の中が必要とする仕組みやサービスに応えられる仕事であるかどうか、今までの価値観の延長線上にはない可能性も大いにある。コロナだから、あるいは今の業績が厳しいからといった理由で避けるのではなく、変化が迫られる中で、どのように変わっていける組織、会社なのかという点で捉えていく方法をお勧めしたい。その中で自分の強みや貢献できる役割を明確にしてみると、具体的な活躍の場が見えてくることもある。

 また、コロナ禍における物理的な移動の制限は、人と会うことのハードルを上げたとも言える。人と会うことが経済を動かしていたことを実感しながらも、人と会う必要性についてあらためて再考された方も多いのではないだろうか。

 今後の有望な職業を選ぶ一つの基準があるとすれば、新しい仕組みやシステムに代替させていく職種かどうか、という点だ。例えばデジタル化を推進するIT企業では、今まで会って行っていたことを会わなくて済む仕組みづくりに取り組んでいる。

 今後も会わないことに対応している業態や、これからの社会インフラを整える役割を担う業態は、就労者をまだまだ必要としている。即戦力人材の採用を進めたいが、新しい分野で経験者が多くない職種は今後も出てくることが予想される。データアナリストやITエンジニアといったスキルを身に着けて、これから必要とされる分野でキャリアを構築していく戦略も考えられる。

 Q 転職は今後2~3年は慎重になるべき? 今すぐやるべき?

 A 転職市況を気にするぐらいならやめた方がいい。

 結論から言えば、いつであっても転職は慎重になるべきだし、転職活動は今すぐやるべきである。もちろんここでいう転職活動とは、少なくなった求人にとにかく応募することではない。仕事で生み出した実績と、その実績を生み出した自分の強みと個性を言語化することである。

 転職を考えるきっかけはどこにあったのか、転職で叶えたいことが何であるのかという問いに対して、求人が少ないから今はやめておこうという気持ちがあるのであれば、当然にやめておいた方が良い。

 今現在、求人が少なくなっている理由についても捉えていく必要がある。業界全体がもともと縮小傾向にあるせいなのか、一時的な要因のためなのかで、選択は変わってくるからだ。

 さらに業界や職種によって有効求人倍率には違いがある。それぞれ業界ごと、職種ごとに昨年対比で数値を参照してみると、長く人手が足りていない職種が見えるほか、長期的に得たいスキルなどのヒントが見つかることがある。

  例:一般事務員0.3倍、IT技術関連2.51倍、建設の職業4.27倍、介護関連5.44倍(2020年6月時点)

テレワークの定着によって成果主義の導入が進んでいる(写真はイメージ)

 Q 在宅を前提としたジョブ型雇用・成果主義へのチェンジが叫ばれている。メリットとデメリットは?

 A 専門スキルがない人にとってはデメリット。新卒の就業が難しくなる恐れも。

 一般的な働き方になりつつあるテレワークは、成果主義との相性が良いと言われている。目の前で仕事をしている姿ではなく成果によって評価が決まるため、管理する側の判断基準も明確になっているからだ(東京都の発表によると、テレワークの導入率はエリアや業態によって差があるものの、都内の30人以上の規模の会社では2020年4月時点で6割以上となっている)。

 仕事に対して人を割り当てるジョブ型雇用に対し、日本型雇用として根付いているのがメンバーシップ型雇用である。人に対して仕事を割り当てるため属人化しやすい。就社した会社内でジョブローテーションしながらゼネラリストとなっていく。新卒一括大量採用と終身雇用(もしくは長期雇用)、年功序列の組織内ピラミッドを登っていくキャリアパスがセットになっていることが多い。

 ジョブ型雇用は求められる職務が明確なため、期待値と評価に対するギャップが少ない点が働く側にとってメリットになっている。また、評価は多くの場合で給与と連動しており、職務内容とその成果によって決まるため、給与水準は持っているスキルによって大枠決まってくることになる。働いて成果を出した分に応じ、給与として対価が支払われる仕組みであるため、会社が個人の事情を考慮したり、勤続年数が長いことで優遇したりすることはなくなる(年齢や家族が増えるなどの事情は考慮されない)。

 次にキャリア構築という面で見てみると、メンバーシップ型は転勤・異動も含めて人事権を会社が持ち、キャリアを決めていくのに対して、ジョブ型は個人が自らキャリアを構築していく必要がある。これはメリットとデメリットが表裏一体で、担当する職務がなくなった際に解雇される可能性があり、会社がキャリアを守ってくれるわけではない。それゆえ、キャリアを自らがつくっていくことをリスクだと感じる人も少なくないのが現状である。

 もともと専門スキルを持たない人にとってはデメリットであり、特に新卒の就業が難しくなるため、一概にどちらが良い、悪いと断定できる話ではない。そうではなく、会社や人、時代が変化する中で、それぞれの良さを考慮しながら最適化していく仕組みが選ばれていくことになるだろう。変化に順応する視点で見れば、人の流動性(キャリアチェンジ・転職)が高くなる点で、これからの働き方はジョブ型雇用が増えてくる可能性が高い。

 Q 五輪中止、緊急事態宣言の再発例の場合、影響は?

 A 同じ業界でも業績には明暗。大切なのは「会社」ではない。

 今現在においても、東京五輪の延期や緊急事態宣言の発令によって有効求人倍率が低くなったという事実がある。一方で採用人数を増やしている企業もあり、同じ業界の中でも業績の明暗がわかれている。なぜ今採用をしているのか、求人数の量だけでなく、その採用が何を目的としているかを見誤らないことが転職市場においてはポイントになる。

 立地のよい路面店の飲食店の売り上げが90%以上減少し、東京五輪開催で増えるインバウンド客を迎えるはずだったホテルの稼働率が数%になってしまう未来を、半年前に誰が予想しただろうか。

 長期にわたって安定した仕事を探す人にとっての会社選びは、非常に難しくなってきている。一時の変化であるのか、今後のスタンダードであるのか、状況は変化していくものだからだ。

 会社に入ることが安定であった時代ではすでになくなった。これからの時代はスキルや経験を絶えず学びながら、変化に順応していくことこそが真の安定だと言える。

 採用する企業側も正社員採用の抑制やジョブ型雇用の増加といった変化が生じている。社会の変化とともに、働き方自体を考え直す機会が来たと捉えるべきだ。

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