コロナ禍で苦境、京都の宿泊業界 前を向くホテル女性総支配人の思いとは…

林惠子さん

 京都ブライトンホテル総支配人の林惠子さんは開業33年目を迎えた京都ブライトンホテルで、初の女性総支配人。新型コロナウイルス感染症の流行で宿泊業界はかつてない苦境に立つが、「京都は、適切な距離を保った寄り添い方にたけているまち。日常で緊張を強いられる現在だからこそ、ほっとできる場所として選ばれるのではないか」と前を向く。

 出合いは偶然だった。高校卒業後、さまざまな仕事を経験する中、派遣社員として同ホテルの開業準備室で電話交換を担当。「一から新しいホテルをつくり上げようとするエネルギーがすごかった」と振り返る。1週間の予定だった契約期間は延長が重なり約1年に。いつしか「ブライトンで働きたい」と思うようになり、開業後に正社員となった。

 30年を超えるキャリアで、最も長かったのは広報や企画宣伝を行う企画部門。それまで担当だった宿泊に加え、婚礼や一般宴会、レストランなど各部門のスタッフと接する機会が増えた。社外との関わりも生まれ、当時京都市交響楽団の常任指揮者だった井上道義さんの協力を得て始めた音楽イベントは、形を変えながら30年近く続いている。

 宿泊プランの企画を通じて出会った寺や神社、花街、伝統工芸など各分野の人たちからも刺激を受けた。一人一人が「京都を支えている」という気概を持ち、他者に対してはいたずらに距離を詰めず、一線を引いて思いやる-。「ホテルはこの人たちの精神を手本にしていくべき」と思うようになり、開業15周年に合わせて打ち出した目標を示すキャッチコピーは「京都基準」と名付けた。

 2015年に副総支配人となり、半年後には総支配人に就任。かつて在籍した宿泊部門も、予約サイトの登場で環境が激変しており、一から勉強する大変さを味わった。やりがいを感じるのは、宿泊客から届く礼状を通じ、スタッフの頑張りに触れた瞬間。「涙が出るほどうれしい」と話す。

 総支配人就任当初は「宿不足」といわれた京都も、建設ラッシュで「供給過多」に転じ、コロナ禍では大きな打撃を受けている。めまぐるしく移ろう経営環境の下、「顧客の思いに沿った『寄り添えるスタッフ』の存在こそが、ホテルをつくっている」との信念を胸に、難しいかじ取りを担う。 

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