国家公務員の定年延長を考える~検察庁法改正案の裏に隠れた本当の論点~

国家公務員の定年延長を考える

先月の6月17日、第201通常国会が閉会しましたが、翌日から東京都知事選が始まっため、十分な総括が行われなかったように感じました。しかし、総括すべき論点はあまたとあったはずです。そこで、今回はSNS上において「#検察庁法改正案に講義します」というハッシュタグでも話題になった、検察庁法改正法案を含む、国家公務員の定年延長に向けた「国家公務員法等の一部を改正する法律案」について問題提起をしていきます。

検査庁法改正に係る国会審議に欠けていた視点

検察庁法改正法案を含む、国家公務員の定年延長に向けた「国家公務員法等の一部を改正する法律案」は、先月6月17日の通常国会閉幕と同時に、廃案となりました。同法案に関しては、ネット上での批判のみならず、普段は政治的発言をあまりしない芸能人が、激しい批判を展開したことでも話題になりました。立憲民主党等を中心に構成する、野党統一会派もこの論調を支持し、検察の独立性を損なう検察庁法を、束ね法案から外すべきだと主張し、国会審議に臨んでいました。結果、各種世論調査等の結果も踏まえ、安倍政権は法案成立を断念することになりました。しかし、筆者は、これは検察庁法改正法案単体の問題では無く、束ね法案全体の内容や立法事実、背景を精査するべきであったと考えています。

検察庁法改正の本当の問題

まず、検察庁法改正法案についてです。筆者は、中身自体にそこまでの問題があるとは思っていません。検事総長の人事権は内閣、検事長以下は法務大臣ににあるのですから、内閣が定年延長を認めることに問題はないと考えるからです。また、内閣が検事総長を含む、検察官を罷免出来ないこと(検察官適格審査会による通知がある場合は可能)には変わりはないのですから、内閣が強制的に捜査を止めさせることは出来ず、検察の中立性は保たれるものであったと筆者は考えます。

ただし、コロナ禍で、急がなければならない立法事実があったのかは疑問を感じていました。また、検察官の定年延長に関する解釈を変更してから、法律改正をするというプロセスには問題があったのではないでしょうか。本来であれば、このような議論を国会でして頂たかったのですが、野党統一会派等の質疑を見ると、反対ありきで、具体的な内容や立法事実が精査しているようにはとても見受けられませんでした。

維新と立国社の違い

一方、同じ野党でも日本維新の会には、精査する姿勢が感じられました。これには、以下のように、野党統一会派と日本維新の会には、「法の支配」に対する考え方の違いがあるのだと筆者は考えます。
野党統一会派..とにかく権力を抑制すること(政府権力=絶対悪)
日本維新の会..権力を適切に公使させること(政府権力≠絶対悪)
このように、野党統一会派は、政府権力をいかに抑制するかばかりに重きを置いた結果、「法の支配」の本質である、権力を適切に行使させる視点が欠けていて、具体的な内容や立法事実を精査するに至らなかったのだと考えます。それのみならず、このような姿勢によって、焦点は検察庁法改正法案にしか当たらず、実は国家公務員の定年延長そのものに関わる、重要な問題を見逃していまっていたのです。

定年延長の前にやるべき公務員制度改革

定年延長の前にやるべきことがある

前述の重要な問題とは、国家公務員の定年延長の前提条件として必要不可欠である、「公務員制度改革基本法」に基づく「能力・実績主義」の徹底等の公務員制度改革が形 骸化してしまっていることです。その証拠として、「能力・実績主義」の基となる人事評価(能力評価・業績評価共に)は、5段階中の上位3段階が大半で、下位2段階は合わせて0.6%となっており、十分な役割を果たしていません。また、平成25年以降に関しては、実施すらされていない有様です。また、幹部ポストへの民間登用や、若手等の抜擢人事もほとんど進んでいません。

このように、「能力・実績主義」の徹底や、「人材の流動化」は、ほとんど成されてないません。即ち、年功序列体制のままで国家公務員の定年延長を認めようとしていたのです。これは、昨今の働き方改革の流れに逆行することです。尚、今改正法案の付則には、「能力・実績主義」の徹底が盛り込まれていますが、現行法における「公務員制度改革基本法」に既に明示されていることです。しかし、法案自体が、廃案となったのが不幸中の幸いとなり、公務員の定年延長の前に、腰を据えて前提条件を整えることの出来る時間が生まれました。

定年制は廃止せよ

少子高齢化が我が国最大の懸案の中、確かに公務員の定年延長は必要ですが、その前提として「能力・実績主義」の徹底や「人材の流動化」も必要不可欠です。また、これらによって、年功序列が解消されれば、一層のこと定年という概念を無くすべきです。人生100年時代と言われる中、もはや定年制という概念は必要なくなると筆者は考えています。勿論、これは公務員に限る話ではありません。民間の年功序列の解消と雇用の流動化を進め、官民の壁も無くし、定年制は廃止する。まさに、これは構造改革であり、成長戦略です。そのためにも、先ずは骨抜きになっている公務員制度改革をスピード感を持って進めるべきです。そして、本来は、このような議論こそ国会でやるべき議論ではないでしょうか。

編集後記

最後までご一読ありがとうございました!今回は「選挙」から離れて、少し硬派な問題提起をさせて頂きましたが、皆さんはどう思われましたか?少しでも、公務員制度や政治、経済などのことについて考えるきっかけとなれば幸いです。今回は、3回目の寄稿となりました。今回は少し硬派な記事となりましたが、次回以降も、分かりやすくクオリティーの高い記事を提供できるよう全力を尽くしますので、応援の程をよろしくお願い申し上げます!

© policy(ポリシー)