F1 Topics:示されていた明らかなルール。メルセデスとハミルトンが犯した最大のミスで勝てるレースをとりこぼした理由【F1第8戦】

 第8戦イタリアGPは、ピエール・ガスリー(アルファタウリ)が歓喜の初優勝を飾ったが、その大きな要因となったのが、ルイス・ハミルトン(メルセデス)がピットエントリー閉鎖中にピットインしたことで、10秒のストップ&ゴー・ペナルティを受けたことだった。

 問題が起きたのは、18周目。ケビン・マグヌッセン(ハース)がマシントラブルを抱え、ピットエントリーに入ったところで右側の芝生の上にマシンを止めた。その2周後にセーフティカーが出動する。このとき、ハミルトンはパラボリカ手前のストレート上を走っていた。コーナーまで100mのサインボード手前にあるマーシャルライトには「SC」の文字が掲示されていた。

 このときのやりとりの様子はF1の公式サイトでも動画が公開されている。

メルセデス:セーフティカーが出た。ピットに入れ

ハミルトン:ハードタイヤで行こう。ハードタイヤだ

 その後、ハミルトンはパラボリカへ進入。外側のマーシャルライトには黄色い「×」のサインが、2カ所で点滅掲示されていた。右コーナーのパラボリカではその「×」サインは、2つともハミルトンの車載カメラに右から左へ流れるようにしっかりととらえられていた。ところが、このときハミルトンとチームはピットインしたときに履くタイヤの種類でもめていた。

ハミルトン:ハードだ、ハード

メルセデス:ルイス、もう遅い。ミディアムに交換する。ミディアムだ

 そして、ハミルトンがピットエントリーに入ったところで、チームから無線が。

メルセデス:ステイアウトだ。ピットエントリーが閉鎖される

ハミルトン:何? どういう意味?

メルセデス:ピットエントリーは閉鎖されていたんだ。知らせるのが遅かった

 こうしてピットインしたハミルトンはタイヤ交換を済ませてピットアウトしていくが、タイヤ交換作業中からコースに復帰するまで、ふたりの無線は止まらない。

ハミルトン:ピットエントリーは閉鎖されていたの!?

メルセデス:いま確認中だ。それがいつ出されたのかを確認してる

ハミルトン:おかしいよ。だってマシンは完全にコースの外に停まっていたよ

メルセデス:了解。たぶん、大丈夫。

ハミルトン:本当にピットエントリーが閉鎖されていたの?

メルセデス:(FIAからの)回答を待っている

メルセデス:いまピットエントリーがオープンになった。つまり……僕たちはいま審議中になっている。だから、レース再開後は、できだけギャップを築きたい

ハミルトン:リプレイして確認してよ。(ピットエントリーが閉鎖という)ライトなんて見えなかったよ

2020年F1第8戦イタリアGP 10秒のストップ&ゴー・ペナルティを課せられたルイス・ハミルトン(メルセデス)

■ピットエントリーについては木曜日にきちんとアナウンスされていた

 レース後、メルセデスのトト・ウォルフ代表は、そのときの状況を次のように説明した。

「(ハミルトンが)ピットエントリーへ向かおうとしていたとき、ストラテジストのひとりが無線で何か叫んでいたが、我々は混乱していた。また我々には(ピットエントリーが閉鎖されているという「×」という)サインは見えなかった。それで、ルイスのレースが台無しになった。悔しいが、受け止めなくてはいけない」

 ウォルフはハミルトンとチームをかばったが、あの周にピットインしたのがハミルトンとアントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)のふたりだったことを考えれば、これは不可抗力ではなく、明らかにハミルトンとチームのミスだったと言える。それは、2番手を走行していたカルロス・サインツ(マクラーレン)の無線を聞けば分かる。

マクラーレン:カルロス、いまはピットエントリーが閉鎖された。ピットエントリーは閉鎖されている

サインツ:OK。じゃ、だれも入れないっていうことだね

マクラーレン:本当はピットインしたいんだけど、いまはできない

サインツ:分かった、ステイアウトするよ。でも、本当に閉鎖されている? だってハミルトンがピットインしていったよ

マクラーレン:ステイアウトが正しい。ハミルトンはピットインしたようだが、入るべきじゃなかった

 おそらくハミルトンが言っている「ライトなんてなかった」というのは、ピットロード、またはピットレーンの入口にある信号のことを示していると思われるが、そもそもそこには信号はない。

 なぜなら、そこで赤信号を見せたところで、本コースに戻ることは不可能だからだ。ピット出口には信号はあるが、レース中、ピット入口側にはレース中は信号は常設されていない。もしかしたら、ハミルトンはフリー走行と予選時に抜き打ちで車重を計測することを知らせる車検用の信号と勘違いしているのかもしれない。

木曜日に発行されたレースディレクターズ・イベント・ノートの「5-2」でピットエントリーの状況を示すライトについて説明があった(Race Directors’ Event Notes1/赤いアンダーライン部分)。
レースディレクターズ・イベント・ノート「5-2」にはイラスト(Race Directors’ Event Notes2)も添付されていた。

 ピットエントリーの状況を示すライトは、前述のように最終コーナー、パラボリカの途中と出口の2カ所に設置していることは、木曜日に発行されたレースディレクターズ・イベント・ノートの「5-2」で説明しており(Race Directors’ Event Notes1/赤いアンダーライン部分)、そこにはイラスト(Race Directors’ Event Notes2)も添付されている。

 ただし、そのライトはドライバーには見えるが、ピットからは見えない。なぜマクラーレンのピットはピット入口が閉鎖されていることを知り得たのか。それは、FIAのタイミングモニターの4ページ目に出されていたと、ウォルフは明かした。

「FIAのタイミングモニターの4ページ目にそれが表示されていた。しかし、あのとき我々はピットインすること、そして、そのときどちらのタイヤを履くべきかに集中していたんだ」

 つまり、今回の一件はハミルトンとメルセデスが二重に犯した、あってはならないミスだった。

2020年F1第8戦イタリアGP 赤旗中断明け、トップでリスタートするもペナルティで最後尾まで後退したルイス・ハミルトン(メルセデス)

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