ブルーハーツの新時代、初のナンバーワン・アルバム「BUST WASTE HIP」 1990年 9月10日 ザ・ブルーハーツのアルバム「BUST WASTE HIP」がリリースされた日

初のナンバーワン・アルバム、先行シングルは「情熱の薔薇」

 どっかの坊ずが 親のスネかじりながら
 どっかの坊ずが 原発はいらねえってよ
 どうやらそれが新しいハヤリなんだな
 明日はいったい何がハヤるんだろう

「チェリノブイリには行きたくねえ」と歌った1988年7月の自主制作盤「チェルノブイリ」からわずか2年余り、マーシーことギターの真島昌利は「イメージ」で上記の、いわば身も蓋も無い歌詞を投げかけた。シニカルな、しかし決して看過は出来ない歌詞。これはブルーハーツが前進するにあたって通らなくてはならない道だった。

It was 30 years ago today.
1990年の今日9月10日、ザ・ブルーハーツの4枚めにしてレーベル移籍第1弾のアルバム『BUST WASTE HIP』がリリースされた。7月にリリースされた先行シングル「情熱の薔薇」も収められたこのアルバムは、シングル同様、24日付のオリコンチャートで1位を獲得。ブルーハーツ初のNo.1アルバムとなった。その1曲めを飾ったのが「イメージ」だった。

予定調和を打破、「イメージ」で幕を開けたブルーハーツ新時代

 お金があるときゃ
 そりゃあ酒でもおごってやるよ
 お金が無けりゃあ
 イヤなことでもやらなきゃならねぇ
 くだらねえ仕事でも仕事は仕事
 働く場所があるだけラッキーだろう

「イメージ」の冒頭の歌詞である。やはりあけすけだが、個人的には当時入社2年め、まだまだペーペーでこの歌詞が刺さったのもまた事実だった。

 イメージ イメージ イメージが大切だ
 中身が無くてもイメージがあればいいよ

もちろん皮肉ではあるが、サビもやはり身も蓋も無い。僕ら若者の代弁者と言われたブルーハーツは、もはやここにはいなかった。

「イメージ」は、ずしっとした重量感のあるイントロで幕を開ける。ブルーハーツのアルバム1曲めで初のミドルテンポ。リズム隊が強調され、後にザ・ハイロウズのメンバーとなる白井幹夫のピアノが乗りスケール感の増した音は、明らかにそれまでとは異なり、ブルーハーツ新時代を高らかに告げていた。エンジニアとミキシングを担当したのは川口聡。この後ザ・ハイロウズ、ザ・クロマニヨンズを手掛けることになる。

そう、「イメージ」は先行シングル「情熱の薔薇」と並び、全ての始まりだったのだ。マーシーも「ブルーハーツの予定調和を打開しようとしていた時期」と語っていたという。歌詞もサウンドも大きく変わった「イメージ」は、まさに挨拶代わりの1曲だった。

「イメージ」は、2005年のブルーハーツ初のオール・タイム・ベスト『THE BLUE HEARTS 30th ANNIVERSARY ALL TIME MEMORIALS ~SUPER SELECTED SONGS~』にも収められた。アルバムを代表する1曲となったと言っていいだろう。

シンプルな歌詞、ポップなサウンド… 翼を広げたブルーハーツ

しかし「イメージ」やアルバムでは10曲めの「情熱の薔薇」の様に分かり易い、メッセージ性のある歌詞は、実は『BUST WASTE HIP』では少数派だった。

ヴォーカル甲本ヒロトが決意を歌う、後にシングルカットされた3曲めの「首つり台から」もこの少数派であるが、同じくヒロト作の2曲め「殺しのライセンス」や6曲め「悲しいうわさ」は一見ハードボイルドな世界観の歌詞。いわばフィクションの世界なのである。

 信じられないな うれしいな
 殺しのライセンスを道で拾った
 (殺しのライセンス)

 悲しいうわさを聞いたよ 昨日
 オマエがこの街を出て行くなんて
 (悲しいうわさ)

個人的に大好きなマーシー作の4曲め「脳天気」もシンプルな歌詞だ。

 いい天気だ いい天気だ
 いい天気だ ノー天気だ
 空が晴れてる日には
 どうでもいい気がする
 あれじゃないこれじゃない
 少しは忘れる

マーシー作の5曲め「夜の中を」とヒロト作の8曲め「夢の駅」はドリーミーな歌詞。特に後者はまるで童謡のようだ。

 パンパンパン パンパンパン
 パーンと弾けて飛んでいけ

ヒロト作の10曲め「恋のゲーム」もタイトルの連呼が続くシンプルな歌詞、そしてマーシー作の11曲め「キューティーパイ」に至ってはなんと円周率(πパイ)がそのまま歌詞になっている。この様に歌詞はシンプルに、抽象的に、そして時にはナンセンスへと変化を遂げたのである。

そして曲のスタイルも多様になり、総じてポップになった。「脳天気」はフォークロック、マーシー作の7曲め「Hのブルース」はヘヴィーなブルース、「夢の駅」は童謡の様なスカ。マーシー作の10曲め「スピード」の様な疾走感あるロックはやはり少数派だ。

「夜の中を」では梶くんことドラムスの梶原徹也のスティールドラムが、ヒロト作の14曲め、ラストナンバー「ナビゲーター」ではブラスバンドまで登場する。「Hのブルース」と「キューティーパイ」ではなんと坂田明もサックスを吹いている。

そして13曲め「真夜中のテレフォン」はベースの河口純之助こと河ちゃんの曲が初めて収められた。モータウン調のアレンジで河ちゃんの高い声のヴォーカルの聴ける佳曲で、アルバムのレンジをさらに広げた。まさに『BUST WASTE HIP』はブルーハーツが “翼を広げた” 一枚だった。

これこそがロック! ヒロトとマーシーの “自由な心”

ロックの定義は人によって千差万別だと思うが、僕は “自由” ではないかと考える。カタリベ本田隆さんの別稿『ブルーハーツから感じ取った唯一無二の価値観、自由な心でいましょう』にもある通り、マーシーもかつてサイン色紙に「自由な心でいましょう」と書いていた。敢えて言ってしまうが、“反骨” “反抗” なんて狭いものではないだろう。

『BUST WASTE HIP』はブルーハーツが、パンクロック、青春ロックのくびきから自由になったアルバムだった。そしてヒロトとマーシーのこの “自由な心” は、90年代のブルーハーツからザ・ハイロウズ、ザ・クロマニヨンズまで脈々と生きている。二人はロックの純度を高めていくのだ。

そもそもアルバムタイトルからしてナンセンス。本当は “WASTE” ではなく “WAIST” が正しい。タイトルを直訳すると “胸はお尻を浪費する”。なぜこんなタイトルになったのかも未だ不明。しかしこれこそが自由でありロックなのではないだろうか。

もう「ガンバレ!」とは言ってくれなくなったブルーハーツ。しかしこの『BUST WASTE HIP』にも何故か僕らはしっかり背中を押されたのだった。

カタリベ: 宮木宣嗣

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