いわし雲の兆し

 台風9号が迫っていた今月初め、朝の明るい空に、うろこ雲を見つけました-と読者のお一人から便りをもらった。しばらくしたら、ふわりと丸っこい雲に変わったが、初秋の風情をいくらか感じたらしい▲では、同じような雲、いわし雲とは何?-と、その方は「風と雲のことば辞典」(講談社学術文庫)をめくったという。こうあった。〈空一面に白く小さな雲の塊がイワシの群れのように並んだ雲〉…▲説明は続く。〈イワシの大漁の兆しだといい、一方で時化(しけ)の前兆だともいった〉。自然界も私たちもそうですね、良い時があれば悪い時もあり…と、お便りにつづられている▲当方の手元にも同じ辞典があり、「鰯雲(いわしぐも)」の語意を味わう。台風一過のいま、月初めのまだらな雲は、ひどい荒天の兆しだったのかと妙な一致を感じている▲立て続けの台風が残した爪痕は深い。建物の損壊、ずっと長引いた停電は言うに及ばず、例えば九十九島のカキの養殖いかだと作業小屋が壊れ、「自然には勝てない」と涙ぐむ養殖業の男性の姿をニュースで見れば、言葉を失う▲空模様だけではない。生活の糧、営みもまた、暴風と時化の時期だという人々がいる。大漁豊作の知らせならば一層よいが、これから秋空に広がるいわし雲が、せめて安らかな日々の兆しでありますよう。(徹)

 


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