ドラマ「半沢直樹」が10倍面白くなる!大手銀行3行を渡り歩いたプライベートバンカーが語る、半沢のウソ・ホント

メガバンク、大手外資系銀行、大手信託銀行と3行で勤務しました。大人気のTBSドラマ「半沢直樹」を見て、全くのフィクションというよりは、「あー、そういう不祥事あるよね」とか「そんな事件、当行でもあったなあ」という思いがこみ上げています。

元銀行員として、あのドラマってどこまでホントなの?という疑問に、あくまで個人の体験をもとにお答えしたいと思います。


月に1度くらいは事件が起きる

私が勤務していたころは、支店ベースでも毎月一度くらいは何かしらの事件が起きていました。例えば、現金勘定相違、個人情報流出・紛失、パワハラセクハラ問題、疑わしい送金や口座の差し押さえ、クレーマー襲撃など、さまざまな出来事がありました。

経験上、銀行員にとって、特にメガバンクでは人事評価が最大の関心事でした。どれだけ素晴らしいキャリアを歩んできても、自分自身や部下、支店や担当部署で不祥事が起き、人事考課に傷がつけば出世レースから脱落することが多々あります。

そこで、つい通常業務で起きたミスを隠蔽しようとしたり、担当部署内で処理しようとしたりします。その結果、何でもないミスが大きな事件につながることがあります。その点で、銀行の体質は通常の企業と全く異質です。ドラマでは、その根幹の部分が巧みに表現されていると感じます。

銀行員でない方からすると「え、何でそういう行動にでてしまうの?何でそういう対処になるの?」という部分が多いのではないでしょうか。しかし、元メガバンクの人間からするとあまり違和感はありません。

ただし、10段階でレベル3くらいのものを、思いっきり膨らましてレベル10の話に仕上げ、面白さを演出しているという感じです。

グループ企業の中で銀行の意向は絶対

「親会社が子会社の仕事を取るor邪魔する→ホント!」

メガバンクでは、銀行の意向に反することを子会社がするなど絶対に許されないという風潮がありました。私が新卒で入行した某メガバンクでは、グループ会社の証券会社、信託銀行と共同で仕事をする機会が多くありました。

系列会社が取ってきた案件も、最優先は銀行の意向です。直接は関係のない銀行上席の了解をわざわざ取り付ける必要がありました。銀行側も系列会社を格下に見る風潮があり、全く関係のない上席が出てきて「私に挨拶がない!こんなに失礼な(グループの)証券会社とは協働しなくてよい!」なんてことも。

同じグループ企業なのに、グループ会社持ちでの銀行接待は非常に多く、基本的には銀行のご意向をお伺いし、案件を進める許可をもらうという慣習がありました。若いころは、なぜこんなに頻繁にグループ会社間で接待があるのか理解できませんでした。

別のメガバンクでも同様でした。銀行から系列の信託銀行へ顧客が紹介された後は、信託銀行の案件となるにも関わらず、手数料が多く取れる商品を提案するよう圧力がかかったり、直接指示が飛んできたりということは当然のようにありました。銀行の意向に沿わないと、上席を通して抗議してきて案件を取り上げたり、圧力をかけて案件をつぶされたりと、その権力の使い方には凄まじいものがありました。

人事異動は大大大イベント

「出向ってそんなに頻繁にあるの?銀行員にとって出向って恐怖?→ホント!」

メガバンク銀行員にとっての出向は恐怖です。若手のうちのグループ間人材交流出向や定年間近の出向は問題ありませんが、キャリア形成期や創成期の出向はほぼ片道切符です。その後、銀行に戻ってきても、出世はほぼ望めません。

半年に一度の大きな人事異動は、大変なイベントでした。発表の時間が近づくと新人はPCに張り付き、発表された瞬間に大量のリストをプリントアウトして、上席陣や先輩社員に配ります。

そこから数時間は、リストを眺めながら自分の同期や年代の近い社員がどこに異動したかを入念にチェック。「あいつはこんないい部署にいってラインに乗っている」「あいつはもう完全にラインから外れたな」などという会話が展開されます。

そして、自分が関わった行員にその日のうちに「ご栄転おめでとう!」や「今回は残念だったね」と、内線電話で激励します。これは発表当日に行わないと失礼にあたるとされ、残業してでも電話をかけ続けていました。

銀行員の一番の関心は人事異動です。半沢直樹のように融資課長、次長から子会社証券に出向し、営業第二部次長ポストで返りかえり咲くようなことは、極めて稀なケースだと思います。

伊佐山みたいな上司は結構いる…?

「伊佐山みたいなパワハラ上司、今もほんとにいる?→結構います」

現在のメガバンクは統合を繰り返して様々な人材がいますが、出身行派閥は健在でした。上席がどこの出身かによって気に入られたり、何のいわれもないのに不遇な扱いを受けたりした行員もいました。

当時、異動先の上席がどこの出身であるかは、人間関係に影響していたと思います。今は、旧行出身者が年齢的に中間管理職以上になっているので、その風潮は薄くなっているはずです。

筆者が勤務していたメガバンクでは、直属の上司を飛び越えて相談や報告をすることはタブーでした。私が仕えた支店長は、当時メガバンク史上最年少で支店長になり、非常にオープンな人でした。私もよく支店長室に呼ばれて相談や激励を受けておりました。通常では2、3年目の若手が支店長室に呼ばれるのは、大きなミスか人事面談くらいで、珍しいことでした。

しかし、それを気に入らない上司からは、よく嫌がらせを受けました。支店長が会議などで不在の時に限って、支店の最後の一人になるまで残業を強要されたり、急ぎで必要でない書類をもらうために、顧客の旅行先まで取りに行かされたりしました。

ある日、先輩のデスクが消えた

信じられないような事件もありました。退社時には必ずデスクの施錠をする決まりで、最後に帰る人が全員のデスクをチェックするのですが、ある日、私の先輩がデスク施錠を失念したのです。その時、怒り狂った副支店長は、そのデスクを金庫室に運ばせてしまったのです。翌朝、自分のデスクが消えていたのを見て、先輩は呆然。全体会議でかなり叱られてしまいました。

金融庁検査は突然やってくる

「金融庁や証券取引等監視委員会の検査って実際にあんな感じ?黒崎さんみたいな人が来る?→検査の目的よりますが非常に厳しいものです」

金融庁検査は基本的にノンアポで突然やってきます。ある程度の期間ごとにメガバンクをローテーションで回っているものと、大きな懸念事項があり突如決定したものとあります。

ドラマの中であったように、告知せずにやってきた場合、朝一に彼らが入ってきた瞬間に全ての業務を辞め、PCなどは触らず指示された書類を粛々と提出します。金融庁検査も厳しいものですが、半沢直樹の第一部でもあった、数年に一度の支店行内検査はさらに厳しいものでした。

実は金融庁検査より厳しい行内検査

朝一、支店開錠者が来る前から、入り口に検査官が立っており、カバンをチェックされます。その後、デスクまでぴったり張り付かれ、PCと机のロックを解除し、何も触らないよう指示されます。行員は、検査官のために会議室を丁寧にセッティングし、指示された大量の書類を用意します。半沢のように他の支店行員が来る前に必死で連絡網を回すことが、新人の仕事でした。

検査期間中は、高級弁当やお土産を用意し、支店長の陣頭指揮の下で、精一杯のもてなしをする支店もあります。検査をパスできない場合は、その期の支店業績評価は最低(評価対象外)となるので、合格できないと支店の雰囲気は最悪となり、何をやっても無駄という風潮になってしまうのです。期末に検査が入っても、不合格であればその期の良好な成績はゼロになってしいます。

私の経験上、支店で何かしらの不備を見つけようと、言い掛かりに近い指摘も多くありました。筆者は2年目のときの行内検査で検査官にたてつき、まさにドラマのように、稟議書ファイルを投げつけられました。

証券取引等監視委員会の検査で、社員が自費で損失補填などをしていないを調べるため、個人の通帳まで提出させられたという噂も耳にしました。半沢直樹における金融庁検査や行内検査のエピソードは、あながち間違っていないと言わざるを得ません。

とにかく長く厳しい銀行員生活

「上司のミスは部下のミス、部下の手柄は上司の手柄ってホント?→ウソ。部下のミスは上司のミス、部下の手柄は上司の手柄です」

繰り返しになりますが、銀行員の最大の関心事は人事評価です。長い行員生活、どこかで一度でも失敗すれば出世ラインから外れる世界です。自分の在籍期間中、在籍組織で成果をあげ、かつ不祥事を起こさないことが重要です。

当然、自分の部下の不祥事は管理者の人事考課に大きく影響しますし、前任のミスが自分の担当期間に発覚すれば責任を取らされます。部下にミスを押し付けるなどということは不可能であり、逆に部下や上司に自分のキャリアを閉ざされてしまうことが多々あります。

筆者は退職するとき、当時の支店長に「君は今同期の中でもトップラインを走っている。何故退職する必要がある?」と問われました。「当行で出世していくためには、いかにミスをしないか、不祥事を起こさないかが重要です。転職ができない年齢になった時、前任の不祥事を被せられるとか、部下のミスによってラインから外れ、残りの人生をこの銀行に捧げることが怖いです」と答えました。

当時の支店長は大変優秀で、頭取秘書まで務め、将来の役員候補とまで言われておりました。しかし、翌年に配属された支店で避けようのない不祥事に巻き込まれ、あり得ないポジションまで格下げされました。部下の手柄は上司の手柄であるかもしれませんが、上司のミスを部下に押し付けられるような組織ではありません。

厳しい世界だが、やりがいのある仕事

銀行員の仕事は、何気ないミスが法令違反になり、一つの送金がマネーロンダリングや不正取引に繋がることもあります。窓口担当者は水際で不正送金や振り込め詐欺を防止する責任がありますし、審査担当者は決算や資金使途に不審なところがないか細部までチェックが必要です。どの職種でも、日々大きなプレッシャーとストレスを受けています。

しかし、どのポジションでも本当にやりがいのある仕事なのです。資金繰りが大変な会社に、その将来性を見通し融資することで救われることがありますし、その融資によって飛躍的な成長を手助けすることもできます。お客様が窓口で送金をするとき、迷惑な顔をされても、なぜこの送金をするのか、原資は何なのかと根掘り葉掘り聞くことで、金融犯罪を未然に防ぐことができます。

筆者はメガバンクを退職してしまいましたが、法令に縛られながら時代と共に大きく変革している金融システムに対応し、厳しい環境で働いている銀行員をリスペクトしています。今でも、銀行員の仕事ができたこと、一緒に働いてくれた行員に感謝と敬意を持ち続けています。

<文:前田 裕紀>

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