【MLB】米最多652セーブの投手も武器にした「カッター」 お股ニキ選出の“現役名手4人”は?

ナショナルズのマックス・シャーザー【写真:AP】

メジャー史上最高の使い手は通算652セーブのリベラ

【お股ニキが選ぶ3+1・MLB編 第8回 カットボール】

MLB2020シーズンは、早くも残すところ2週間ほどとなった。コロナ禍によりシーズン60試合という超イレギュラーなスケジュールで行われているが、プレーオフ進出を懸けた争いは例年と変わらずヒートアップしている。その中で繰り広げられる投手と打者の真剣勝負もまた、変わらぬ熱さと興奮を生み出しているが、打者がいくら狙い打ちしようとしても捉えきれないボールがある。それが、いわゆる「魔球」だ。

メジャーの並み居る強打者を翻弄する魔球の中から、毎回1つの球種にフォーカスを当ててお届けするのが、「お股ニキが選ぶ3+1・MLB編」シリーズだ。野球の新たな視点を提案する謎の解説者・お股ニキ氏が、魔球の使い手「トップ3」と要チェックの「プラス1」を加えた4投手を独断と偏見で選び、ご紹介する。

今回は、速球とほぼ同じ球速ながら手元でわずかに変化する「カットボール(カッター)」だ。カットボールの史上最高の使い手として知られるのが、ヤンキースで長らく守護神を務め、通算652セーブのメジャー記録を持つマリアノ・リベラ。カットボールが来ると分かっていても、バットは空を斬り、打球がフェンスを越えることは珍しかった。速球と変わらぬスピードで小さく鋭く変化するが、変化の方向や大きさは投手によって様々だ。さて、現在のメジャーでお股ニキ氏が選んだ4人の「カットボール」の使い手は一体誰なのだろう?
(データソースはBaseball Savant、FanGraphs、BrooksBaseballによる。主なデータ項目の説明は最後に付記)

【1位】マックス・シャーザー(ナショナルズ・2020年)右投
回転効率35.3% 平均球速91.3マイル(約146.9キロ) Spin Axis 12:29 2562回転
空振り率22.1% 投球割合9.1% 被打率.045 ピッチバリュー/100:4.9

史上6人目となる両リーグでのサイ・ヤング賞受賞、シーズン2回のノーヒットノーラン達成、そして昨季は怪我を押して果たした根性の登板で、念願の世界一にも輝いたマックス・シャーザー。筆者がタイガース時代の2012年中盤にその投球の覚醒を察知し、進化を見守り続けてきたシャーザーの凄さは、拙書「データ全分析ダルビッシュ最強投手論」でも紹介した通り。ボールのエグさに加えて、毎年必要な微調整を行うことができる対応力と的確さにある。

スライダーを私が言うところの「スラット」化させてきたが、当然カットボールとは投げ分けている。今季はカットボールをより速く、小さく落下させて、左打者のインロー、いわゆる「デッドゾーン」に投げ込み、多くの空振りを奪っている。デグロム(メッツ)のスライダーに近いようなイメージで、球速は93マイル(約149.6キロ)近く出て、小さく鋭く、バットをかすめるように沈む。

サイ・ヤング賞獲得が射程圏に入ってきたダルビッシュ(カブス)を見ても、打者のイメージを常に外していけるような微調整が可能な技術と思考こそ、現在のトップクラスの投手に求められる素養であろう。

※シャーザーに関する過去のツイート
https://twitter.com/omatacom/status/246042605652172801
https://twitter.com/omatacom/status/878994179006775296

インディアンスのシェーン・ビーバー【写真:AP】

カッターで覚醒したビーバー、打者の裏をかく変化のカットボールを持つリン

【2位】シェーン・ビーバー(インディアンズ・2020年)右投
回転効率38.8% 平均球速89.1マイル(約143.4キロ) Spin Axis 11:39 2519回転
空振り率19.2% 投球割合19.4% 被打率.310 ピッチバリュー/100:2.3

今季ア・リーグのサイ・ヤング賞レースを独走するシェーン・ビーバー。昨年15勝を挙げるなど元々好投手だが、今季はさらなる進化を見せて“覚醒”している。ナックルカーブを武器とする右腕が今季から新たに投球割合を増やしているのが「カッター」である。

折に触れて説明しているが、カッターは打たせて取るだけでなく、適切な軌道や変化で適切なコースに投げ込むことができれば、空振りを多く奪える球種でもある。ダルビッシュのソフトカッターにそっくりなスライダー、ナックルカーブとともに、スライド系変化球にカッターというバリエーションが増えたことで、変化のグラデーションが増大。4シームも含めて各球種の区別がつきにくくなり、さらに打ちにくくなっている印象だ。

【3位】ランス・リン(レンジャーズ・2019年)右投
回転効率27.4% 平均球速88.6マイル(約142.6キロ) Spin Axis 11:23 2583回転
空振り率11.3% 投球割合15.74% 被打率.248 ピッチバリュー/100:0.9

2シームでも取り上げた好投手。強度の高い4シームとスラット気味のカッター、パワーカーブやスプリームのような2シームを投げ分け、MLBトップクラスの投球を披露しているので取り上げざるを得ない。このカッターとパワーカーブでバレルゾーンに打たれたのは、昨季メジャー最小だったという。

昨季のカットボールは、筆者が好むやや落ちながら曲がる「スラット」系だったが、今季はややスピードを上げて落下幅の小さいタイプに変更し、さらに指標が上がっているようだ。その微調整の仕方はシャーザーとも似ている。打者が持つこれまでのイメージを外し、さらに少し落とすか、逆に落とさないようにするといったアプローチはやはり効果的なようだ。

レッドソックスのマーティン・ペレス【写真:AP】

カットボールの有効活用で復活した左腕ペレス

【プラス1】マーティン・ペレス(ツインズ・2019年)左投
回転効率30.4% 平均球速88.1マイル(約141.8キロ) Spin Axis 0:33 2306回転
空振り率10.8% 使用割合30.82% 被打率.214 ピッチバリュー/100:1.6

近年、ベテランの技巧派がカッターを覚えて有効活用し、復活・再生する例が増えている。昨季シャーザーとともに世界一に貢献したアニバル・サンチェス、ウェイド・マイリーなどが代表的で、今季もダラス・カイケルやアダム・ウェインライトがカッターを有効活用している。その中で筆者が好きなタイプのカッターを投げているのがマーティン・ペレスだ。

レンジャーズ時代はダルビッシュとも仲が良く、同じ先発ローテーションで回っていたので、日本人にも馴染みの深いサウスポー。ダルビッシュより1年早い2014年にトミー・ジョン手術を受けている。

昨季からツインズに移籍すると、それまで投げていたスライダーではなく、ややスラットするようなカットボールを全投球の30%以上も投じるようになり、2年ぶりの2桁勝利を挙げた。

もっとも、ピッチバリューがプラスとなっていたのはこのカッターだけで、防御率は5.12。どれか1つの球種だけで抑えるのは難しいが、組み合わせて抑えるには効果的な球種の1つであることは間違いない。

※回転効率:総回転数のうちボールの変化に影響を与える回転数の割合。

※Spin Axis:回転軸の傾き 時計盤の中心にボールがあると考えて“時間”で表記。例えば「6:00」の場合、ボールは投手からホーム方向へ12時から6時へ下向きの回転(トップスピン)をすることを示す。「12:00」の場合は6時から12時へ上向きの回転(バックスピン)、「3:00」の場合は9時から3時へフリスビーのような右向きの回転(サイドスピン)、「9:00」の場合は3時から9時へ左向きの回転(サイドスピン)となる。

※ピッチバリュー/100:その球種が生み出した得点貢献(期待失点の減少)を、100球投じた場合の平均に直したもの。例えば、ある投手の4シームが2.00ならば、「4シームを100球投げることで平均よりも2点の失点を減らした」ことになる。

【動画】これが史上最強のカットボール! メジャー史上最高652セーブの“伝説の守護神”リベラの厳選投球集

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(お股ニキ / Omataniki)

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