『TENET テネット』時間をめぐるトリッキーな物語

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 もしも時間を逆向きに進むことができたら? 時間を巻き戻すとか、未来や過去に行けるタイムマシンのような話ではない。これは、現在から過去へと時間を逆行できる装置をめぐるサスペンス・アクション映画だ。監督はクリストファー・ノーラン。物語を時系列とは逆向きに語る『メメント』で名を成した監督らしい新作といえる。

 ただし、“重力”という題材を見事にエンターテインメントへと昇華させた『インターステラー』のような深みを期待すると肩透かしを食うことになる(重力と時間は密接な関係にあるから、これもまた時間をめぐる物語だった)。純粋にトリッキーな物語を楽しむ映画だから。言い換えれば、物語に触れれば触れるほどネタバレの危険性が高まるので、冒頭の装置についてだけにとどめておく。この装置を使ったクライマックスの攻防は、映像的にもユニークだ。とはいえ、タイムマシンが映画でこれほど幅を利かせているのだから、時間が逆行する映画ももっと作られていいように思うが。

 注意すべきは、約束事が多過ぎて少しでもセリフ(字幕)を聞き逃すと、物語について行けなくなる点。分かりやすくしようと配慮するあまり、あるいは辻褄を合わせようとしたことが、逆にアダとなっている気がするが、『メメント』も一度観ただけでは理解しきれなかったことを思うと、今回もこの複雑さが評判を呼ぶかも。★★★☆☆(外山真也)

監督:クリストファー・ノーラン

出演::ジョン・デイビッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、ケネス・ブラナー

9月18日(金)から全国公開

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