紙の力

 俵万智さんが高校の国語の先生だった頃の話。「国語表現」の時間に、宿題で短歌を作らせ、授業中に紹介して評を加えた。教壇にいるのはほかでもない、あの「サラダ記念日」の人気歌人。だが、意外なことに〈生徒たちのノリは、今ひとつだ〉▲そこで万智先生、生徒たちの作品をプリントにして配ることにした。すると、これが効果てきめん。〈わら半紙に印刷された短歌を配ると、みなキャーキャー言って喜び、自分の作品だけでなく、熱心に友人のものも読んでいる〉▲生徒たちに何が起きたか-。歌人の結論は〈その場で消えてゆく音声や、黒板の文字とは違う力を、彼らは紙に感じていたのだろう。自分の言葉が形として刻まれる喜びを、紙は与えてくれる〉▲新聞社に長く勤めて、すっかり「喜び」とは縁遠くなった最近のわが身はさておき、「紙」への温かなエールがうれしい。エッセー「紙の力」から(「101個目のレモン」所収)▲こちらの“効果”は実感いただけただろうか。昨日から長崎新聞の活字が新しくなった。字形は真四角に近づけ、横線をより太く…。さまざまに工夫を凝らした新書体▲いやいや、肝心なのは中身よ-おっしゃる通りだ。記事もより読みやすく、分かりやすく、親しみやすく。そんな思いもしっかりと新たに。(智)

 


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