Black Lives Matterによって前進する、アメリカのファッション業界

米国ファッション業界で加速する人種差別撤廃の動き

 アメリカで起こったBlack Lives Matter運動の波を受けて、ファッション業界でも人種差別の撤廃を推進する動きが活発化している。なかでも、米国ファッション評議会(CFDA)のCEO、スティーブン・コルブと会長のトム・フォードがCFDAの公式サイトで発表した人種差別の撤廃に関する共同声明は、ダイバーシティ&インクルージョンがマストとなるこれからの時代において、少なくとも今後の業界再編を図る大きなインパクトとなった。

CFDAホームページより)

 CFDAは、今後ファッションビジネスのあらゆる部門で黒人人材を配置するとし、そのために優秀な黒人社員をサポートする社内雇用プログラムを創設する、という目標を掲げた。またファッション系企業に黒人の学生や新卒者を就職させるためのメンターシップ・プログラム、及びインターンシップ・プログラムも適用する。CFDAに限ったことではないが、今後このような人種の壁を撤廃した労働環境の整備は、喫緊の課題として認識されている。なお、ファッション業界としては、他にFashion For All Foundationを中心に多くのブランド、インフルエンサー、デザイナー、財団などがBlack Lives Matterを擁護する声明を出している。

CFDA初の黒人プレジデント

 続いて、黒人というだけでなく、女性のエンパワーメントという観点からも、今後ファッション業界のロールモデルとなりうるポジションに就いたネクストリーダーたちをフィーチャーしてみよう。

 前述の声明文を機に、CFDAは新たなプレジデントとしてカサンドラ・ディグスを任命した。2001年から最高総務財務責任者としてCFDAに貢献してきた彼女は、1962に創立されたCFDAにおいて初の有色人種の女性プレジデントという快挙を飾った。今後、彼女は開発戦略に携わる他、CFDAの会員やファッション業界の教育とメンバーシップの支援に取り組むなど同団体の運営を指揮する。

『ハーパース バザー』が153年の歴史を塗り替える

 アメリカのハーストマガジン社は、アメリカ版『ハーパース バザー』の新編集長にサミラ・ナスルを任命した。153年の歴史を持つ『ハーパース バザー』でも、黒人の女性がトップに就任するのは初とのこと。ハーストマガジン社も、Black Lives Matterの運動が加速していることを鑑み、公正な職場作りのための取り組みを発表している。なお、ナスル氏は過去ファッション業界のレジェンドとして知られるグレース・コディントンの元でアシスタントを経験し、その後『インスタイル』や『エル』、『ヴァニティフェア』誌などでキャリアを積んだファッションのエキスパート。エグゼクティブ層の人事についてあまり多様性が見受けられない、どちらかというと閉鎖的なファッションメディア業界において、マイノリティに新風をもたらした彼女が、今度『ハーパース バザー』でどのような躍進を見せるか楽しみでもある。

白人中心から平等でオープンなファッション業界へ

 まだまだ白人主義のファッションやビューティ業界において、黒人の自由と権利を守り、よりオープンで働きやすい業界を目指すため、「Black in Fashion Council」という活動団体を設立したのが、『ティーン・ヴォーグ』の編集長を務めるリンゼイ・ピープルズ・ワグナーとパブリシストのサンドリン・チャールズの女性2人だ。

 この団体では「Equality Index Score」という企業の透明性やダイバーシティを測るスコアを導入している。これは、あらゆるレベルで黒人従業員を育成することを誓った企業の取り組みを追跡した年1回の公開報告書も含まれており、3年間のコミットメントに署名した企業は方針や様々な取り組みについて説明責任の義務があるとのこと。単に差別撤廃を謳うだけでなく、実体があるかどうか正当に評価することで平等な社会を目指している。

 Black Lives Matterによって、人々の意識は大きく変化した。いや、むしろこれまで蓄積されてきた感情がSNSの影響力で一気にあぶり出されたといったほうが自然かもしれない。人種差別による不正や偏見をなくすために、アメリカのファッション業界も立ち上がった。寄付や募金活動といった物理的なサポートはもちろん、人種に関わらず、様々な差別をなくし、平等な社会を実現するために声をあげ、アクションを起こす。前進する女性たちのパワーも相まって、一層世界を変えていく原動力になりそうだ。

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