ザ・モッズ 森山達也、35年ぶりのソロ作品「GET YOURSELF」リリース 2020年 9月23日 森山達也のマキシシングル「GET YOURSELF」がリリースされた日

ザ・モッズのフロントマン、森山達也

来年、2021年にレコードデビュー40周年を迎えるザ・モッズ。そのフロントマン、森山達也が自身のソロとしては35年ぶりの作品、T.MORIYAMMER名義の4曲入りマキシシングル「GET YOURSELF」が9月23日にリリースされた。(※表題曲「GET YOURSELF」のみ先行ダウンロードされている)

35年前の1985年といえば、つくばで科学万博が開催され、青函トンネルが開通、また阪神タイガースの日本一に沸いた年だ。そんな年に森山達也初のソロアルバム『JUST A PRETENDER』がリリースされた。当時のザ・モッズといえば、同年5月には初の出演映画『THE MODS 夜のハイウェイ』が公開さ。また、TV出演も度重なりザ・モッズのロックンロールは日本全国に浸透していった。

この時期バンドは、初期のプリミティブな衝動を前面に打ち出したスタイルから、ワールドワイドなマーケットを視野に入れたストーンズを思わせるようなスタイルへと変化。サックス、鍵盤、コーラスをサポートメンバーとして迎え入れ、グッとロックの深みを増していった。

1985年、初のソロアルバム「JUST A PRETENDER」

こんな状況の中でリリースされた、『JUST A PRETENDER』は、土屋昌巳プロデュースのもと、シンガー、メロディメイカーとしての森山達也の新たな一面が開花したブルー・アイド・ソウル色の強いアルバムだった。たとえるなら、当時のヒットチャートを賑わせていたポール・ヤングやスタイル・カウンシルの作品と肩を並べる… それほどのクオリティの高さだった。

ザ・モッズと土屋昌巳との出会いは、1982年にリリースされた彼らのサードアルバム『LOOK OUT』まで遡る。土屋の洗練されたマジックが、ザ・モッズに潜んでいた多様性を開花。このアルバムは、後の邦楽ロックシーンで多くのバンドが継承すべくマスターピースとして今も語り継がれている。

『JUST A PRETENDER』もまた、ソフィスティケート(洗練)された楽曲の中からシングルカットした「Love,かくし色」がカネボウ化粧品秋のキャンペーンソングに起用され、第2弾のシングル「JUST MY LADY」もスズキ・アルトのCMソングとなった。つまり、ザ・モッズを取り巻く状況が著しく変化し、森山のソロワークも大きな影響を受けた。その結果として、ロックンロールとはまた違った側面を打ち出し、自身の可能性を最大限に引き出したといえよう。

2020年、35年ぶりのソロ作品「GET YOURSELF」

そして35年ぶりのソロ作品。ここで特筆すべき点は、1985年とは全く違ったスタンスで、シンガー森山達也の現在を描き出しているということだ。

35年前と今。世の中の状況もザ・モッズというバンドを取り巻く状況も大きく変化している。変わらないのは、ザ・モッズは相変わらず今を生きる不退転のロックンロールバンドであり、コンスタントに作品をリリースし、果敢なツアーを重ねてきたということだ。

しかし、コロナ禍により、ザ・モッズもツアーの延期を余儀なくされたうえ、予定していたというバンドとしてのミニアルバムの制作も中止せざるを得なくなったという。そんな中、待ちわびているファンのために何ができるか、そして、今の自分に何ができるか… と森山が模索した結果たどり着いたのが、このマキシシングルのリリースだったのだろう。

制作過程も35年前とは全く異なっている。この作品は、森山と盟友KOZZY IWAKAWAが外部を完全にロックアウトし、2人きりでスタジオにこもり創りあげたということだ。森山とKOZZYは、1992年、ザ・モッズが主体となって立ち上げたレーベル、スカーフェイスからずっと行動を共にしている。現在、ザ・コルツ、マックショウ、自身のソロワークなど多岐に渡る活動を継続しているKOZZYが今回はエンジニアとして手腕を振るい、ドラム、ウッドベース、ギターなど、すべての楽器を演奏している。

森山達也の明日、ザ・モッズの明日、そしてファンの明日

レコーディングは、ビンテージ機材に囲まれたKOZZYの所有するスタジオ、ロックスヴィル・スタジオ・ワンで行われた。2人が練り上げていった音には、ザ・モッズの真骨頂であるマキシマムなロックンロールとは趣の違ったアメリカンメイドのブルース、カントリー、そしてロカビリーのエッセンスが垣間見える。

ウッドベースや、スティックをブラシに持ち替えたドラミングなど、アコースティックを主体としたアレンジは、どこか郷愁を誘いながらも、時代に流されることのない強かさを兼ね備えた普遍的な音だった。そう感じるのは、現在の自分たちの状況、ファンの心情を重ねながら描く希望に満ちた森山のリリックにもあるのかもしれない。シンプルが故に優しさがグッと心に突き刺さる。これはまさに、常にファンと同じ目線で歩んできたザ・モッズの森山達也ならではの優しさだ。

MVの中で、ゆったりとグレッチのギターを構え、チルアウトしたように歌う森山は、魂の故郷とでも言えるルーツミュージックと戯れる少年のようだ。

コロナ禍という未曽有の状況の中で、僕らファンに届いたこの作品は、まさに一筋の光のようなものだった。先が見えない閉塞感の中、響き渡るその音は、限りなく温かで優しい。それは、森山の明日であり、ザ・モッズの明日であり、ファンの明日を見据えているように思えた。

カタリベ: 本田隆

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