「日本代表を引っ張る覚悟」 「ジャッカル」で大暴れの姫野 ラグビーW杯から1年

ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会1次リーグのアイルランド戦で突進する姫野和樹=2019年9月28日、静岡スタジアム

 昨年のラグビーワールドカップ(W杯)日本大会で日本の中心選手として大暴れした26歳のFW姫野和樹(トヨタ自動車)。主にナンバー8として力強い突破や、密集で球を奪う「ジャッカル」で貢献した。代表主将を担ってきたFWリーチ・マイケル(東芝)の後継者として期待される男が2023年W杯フランス大会や競技普及への熱い思いを語った。(共同通信=吉田篤史)

 ―日本大会開幕から1年たった。

 「今年はラグビーがあまりできてないということで、素直に残念というか悲しい。ラグビーというスポーツを日本になくてはならない存在にしたい。それが今の僕の夢。今年のリーグは一番ホットな時期だったのですごく残念。やれていたらもっともっとラグビーは盛り上がったし、夢にもっともっと近づいていたのではと思う」

 ―コロナ禍で代表活動も不透明に。

 「一刻も早く収束することが何よりも大事。そのための決断なのであれば選手はそれに従う。ただ、自分たちは来るべきチャンス、試合に向けて刀を研ぐ作業をずっとしなくてはいけない。僕たちは僕たちの仕事をやるだけ」

 ―自粛期間中は。

 「トレーニングばかりしていた。何かできないかと、家でトレーニングした。クラブハウスが開いたらすぐトレーニングしに行って、みたいな感じで過ごしていた。(筋力トレーニングでかける負荷は)W杯とほぼ同じ数値。いつでも試合ができるぐらい、体は仕上がっていた」

 ―コロナ禍で考えたことは。

 「ラグビーへの愛をあらためて感じた。こんなに長い時間離れることはなかなかなかった。やっぱり自分はラグビーが大好きだと思う期間だった。早くラグビーがしたいと心から思った」

 ―W杯で思い出に残っているシーンは。

 「ありすぎて挙げられない。アイルランドに勝ったことも、地元愛知でプレーできたことも、姫野コールをしていただいたのもすごく(心に)残っている。全てが、1分1秒が宝物」

ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会1次リーグでアイルランドを破って大喜びする姫野(右)=2019年9月28日、静岡スタジアム

 ―達成感も得た。

 「達成感というより次に向けて、というのを強く感じた。どれだけこの結果に満足せずにやっていけるか。目指すべきところがもっともっと上になったというか、世界を知ることができ、成長の糧になった」

 ―W杯で通用した部分と課題は。

 「ブレークダウン(ボール争奪戦)のところもアタックも、自分の良さがすごく出た。ただ、サポートコースや(タックルを受けながらパスをつなぐ)オフロードなどの技術の面で、まだまだ伸びる部分がある」

 ―当たりの強さは強豪チームの選手と互角以上に渡り合った。

 「ただ単純な強さというところではまだまだだな、というのは正直あるが(ぶつかり合う)コンタクトの技術はすごくいいスキルを持っていると思った」

 ―W杯8強の価値は。

 「多くの人にラグビーというスポーツを知ってもらえたことが一番うれしい。また、ラグビーをやりたいという子どもたちがたくさん増えた。今後のラグビー界にとって大きな価値がある。感動や勇気を感じたという人がたくさんいるし、僕に話しかけてくれる人も多くなった」

 ―代表で残したいレガシーは。

 「やっぱり『ワンチーム』は残していきたい。一つのチームになるということはめちゃくちゃ大事。簡単に言えるが、相当な時間を一緒に過ごさないといけない。そういったレガシーは今後も残していくべきだし、やっぱりチームとしてあるべき姿」

 ―ワンチームになったと強く感じた場面は。

 「苦しいときも楽しいときもともにした。仲間というより家族。選ばれなかった選手もたくさんいたが、一緒にやってきた家族のために頑張るという思いがみんな強かった。落選してしまった選手も心から悔しいだろうけど、心から仲間を応援してくれる。峻さん(代表から漏れた布巻=パナソニック)もグラウンドに来て一緒に泣き、一緒に喜んでくれた。ワンチームをすごく感じる部分だった」

 ―次回W杯にどう向かうか。

 「ベスト8を目標に日本大会はやったが、それ以上のものを勝ち得ないといけない。W杯優勝を基準に置いてやっていかなくてはいけないかなと思う。求める努力もみんなの意識も変わってくるだろうし。優勝するためには、ベスト8までやってきた努力の倍くらいしないといけない、となればいい。チームにもたらす影響は大きいかなと思う。優勝することは僕の夢でもある。また、ラグビーをなくてはならない存在にしたいという夢のためには、優勝は必須かなと思う。W杯で日本の可能性を世界の皆さんに感じてもらえただろうし、自分自身が一番感じている」

 ―トヨタ自動車では1年目から主将。リーダーとしての思いは。

 「リーチさんももう年も年なので、やっぱりうまいこと世代交代していかなくてはいけないかなと思う。リーチさんと(宿舎の)部屋が同じだったりとか、一番いい影響をもらっている。今後自分がリーダーとして日本代表を引っ張っていきたいという覚悟と思いは強くある。リーチさんからも常々『姫野が今後日本代表を引っ張っていかなくてはいけない』と言われている。僕が決めることではないし、周りから一番信頼される選手がやるべきだと思うが、やれと言われればやれるし、やりたい」

ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会1次リーグでスコットランドを破り喜ぶリーチ(左)と姫野=2019年10月13日、日産スタジアム

 ―リーチから学んだことは。

 「リーチさんは黙々とやるタイプ。体を黙々と張るし、だからついていきたいと思える。人に助けてもらうのがうまいというか、助けたいと思える人。それも彼の一つの魅力でリーダーシップの部分だと思う。分からないことがあったら、僕にも聞いてくる。僕は何でも自分でやってしまうタイプ。そういったところは僕も見習わないといけないというか、そういうリーダーシップもあるんだなと思った。そういうところは学んだつもりではある」

 ―理想の主将像。

 「最初は口もそんなにうまくなかったし、人に言うのも苦手だった。だからこそ、ひたすらグラウンドの中で結果を残し続ける、背中で見せ続けるというところが僕のリーダーシップだと思った。1年目からそういうリーダーシップをとっていく中で、それだけではまだまだ足りないし、こういうタイミングでこういう発言をするとか、こういうシチュエーションではあえて何も言わないとか、いろんな人から見て学んだ。皆持っているリーダーシップが違う。正解はないのかなと思う。最終的には自分の持っているリーダーシップを発揮するのが一番。そこにフォーカス(集中)してやっていく。足りない部分に関しては、リーチさんみたいに助けてもらったりというところ。いい部分を取り入れながら、新たな自分の形をつくっていければ。いいものを取り入れて試行錯誤しながら、姫野和樹というリーダーの形をつくっていけたらいい。(前ニュージーランド代表主将の)リードもいるし、いろんなものを吸収して、駄目なら駄目と切り取ってやっていけたら」

 ―日本大会でともに戦った松島幸太朗(クレルモン)はフランス1部リーグに挑戦した。海外への思いは。

 「自分が世界に出て活躍することは、日本でもっとラグビーを普及させていくためにも、日本ラグビー界にとっても、すごくプラスなこと。もっともっと海外でプレーする日本人選手が増えていかなくてはいけないかなと思う。日本人選手たちのいい刺激となり、子どもたちには日本人選手でもこれだけ海外でプレーできるんだと感じてもらえられば。勇気を感じたり感動してもらえたりすればうれしい。そういった意味でも、もちろん自分の成長のためにも、すごく行きたい気持ちはある」

 ―特に行きたいリーグは。

 「いろいろある。ヨーロッパもマツ(松島)が行っているし。ただ、自分の足りないものを教えてくれるのは、やっぱりスーパーラグビーなんじゃないかな。サポートランのコースやオフロードの技術、パススキル。そういったところはやっぱり世界一。そこが自分にとってまだまだな部分でもある。一番自分が成長できるリーグなのかな」

 ―日本のトップリーグも大物が加入し、レベルが上がっている。

 「(来季サントリーに加入するニュージーランド代表バックス)ボーデン・バレットもそうだし、リードもいるし。たくさんいい選手が来ているので、そういった選手から学ぶ機会というのはすごく大きい。若い選手にもいい刺激になる。リーグ全体のレベルはすごく上がってきていると思うし、認められてきているんじゃないかな」

トップリーグ、トヨタ自動車―ホンダで突進するトヨタ自動車・姫野=2月1日、パロマ瑞穂ラグビー場

 ―ここまでの選手としての成長、変化は。

 「社会人になってすごく成長できた。しっかりとした人間的な土台を中学、高校、大学でつくり、社会人になってからジェイク(ホワイト前監督)とともにラグビーに対する気持ちや準備を学んだ。一歩一歩積み重ねたことが、社会人になって伸びた理由の一つ。指導者の皆さんには本当に感謝している。ジェイクも1年目からキャプテンという重責を与えてくれて、自分の才能を信じてやってくれたことに本当に感謝している。そこで人生が変わったかなと思っている」

 ―競技普及への思い。

 「ラグビーが僕を育ててくれた。今の自分があるのもラグビーから多くのものを学んだから。ラグビーの素晴らしさを肌で感じている。やっぱり自分のやっているラグビーというスポーツが一番だと言えるし、どのスポーツにも絶対負けないと思っている。揺るぎない自信がある」

 ―競技の魅力は。

 「ラグビーの文化が素晴らしい。相手をリスペクトする、思いやる気持ち。ノーサイドの精神もそう。そういう文化は人を育てるし、人として大事な要素が多く含まれている。ラグビーを知らない人がいるのはもったいない」

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