「倍返しだ!」その時、半沢直樹の頭の中で何が起きてるのか? 脳科学者に聞く「復讐」のメカニズム

 TBS系で放送中の大ヒットドラマ「半沢直樹」が27日にいよいよ最終回を迎える。堺雅人さんが演じる型破りな銀行マンの主人公・半沢が「やられたらやり返す。倍返しだ!」と、組織ぐるみの不正や理不尽に立ち向かい、悪党を懲らしめる勧善懲悪のストーリー。銀行マンとしての信念を貫き奮闘する姿は、視聴者の胸を熱くさせる。

 まさに会社員の理想像とも言える主人公だが、試練を乗り越えながら復讐(ふくしゅう)や自己実現を達成する時、脳内はどのように働いているのか。脳科学が専門の東京大の細田千尋(ほそだ・ちひろ)特任研究員に話を聞いた。(共同通信=杉田正史)

 ▽報酬系

 「報復的な行動には、快楽や喜びを感じる」―。半沢が「倍返しだ!」と叫び、復讐を誓うときに脳内では何が起きているか。細田さんは、架空の人物に関してなので「あくまで一般論」と前置きした上で、「単純な復讐心で考えた場合、脳内の『報酬系』が作用している」と指摘する。 

半沢直樹役の堺雅人さん(右)と大和田暁役の香川照之さん

 細田さんによると、報酬系は、脳の深部から前頭葉にある経路で、特定の目標に進んでいったり、衝動に関与したりする。この報酬系が活性化すると、現状を打開することで得られる満足感や幸福感を与える神経伝達物質「ドーパミン」が多く分泌されるという。 

 7年前の前回シリーズは、半沢の生い立ちや銀行マンとなったきっかけ、敵への復讐がストーリーの中心に置かれた。

 銀行の融資が打ち切られ、経営するネジ工場が傾き自殺した半沢の父。土砂降りの中、父は必死に融資継続をお願いをしたが、当時の担当者だった元常務、香川照之さん演じる大和田暁は取り合わなかった。その非情な姿を少年時代の半沢が目撃し、大和田がいる銀行に就職して復讐することを誓う。

 前回シリーズの最終回では「あなたが謝るのは私じゃありません。雨の日に傘を取り上げトカゲの尻尾として切り捨ててきた、すべての人と会社です。土下座をして下さい」と絶叫して、目的を貫徹した。この時に半沢の報酬系の働きはピークに達し、〝悪役〟を倒した喜びを感じていたかもしれない。

東京大の細田千尋特任研究員

 ▽大和田は理性的?

 「施されたら施し返す、恩返しです!」

 今回のシリーズ、悪役の代表格である大和田の心境の変化に注目が集まっている。前回シリーズで半沢の「倍返し」により不正な融資が暴かれ、銀行マン人生が終わろうとしていた。しかし、北大路欣也さん演じる中野渡謙頭取の温情なのか、行内融和のためなのか、真意は不明だが降格処分だけですんだ。

 こうした背景から大和田は「お・し・ま・い・DEATH!」「この世で、おまえのことが一番嫌い」などと半沢に負の感情をぶつけるものの、「頭取には多大な恩赦を受けました。そのご恩は一生忘れません」と、一時半沢と手を組むという想定外の選択肢を選んだ。

 細田さんは、自分の感情を犠牲にして頭取のために動く「利他的な行動」は、「脳の前頭前皮質腹内側部の機能が働いており、疲れや不満などに鈍感になっている状態だ」と指摘する。「半沢とは共闘したくない感情を『恩返しすべきなんだ』といった強い意思制御を持って行動に移している。理性的な人だと思う」

 ▽自己実現

 歌舞伎俳優の片岡愛之助さんによる怪演が好評の金融庁、黒崎駿一主任検査官。仕事にも部下にも厳しく、独特のオネエ口調でファンを魅了している。

 脱税や不正融資を巡る検査のたびに、半沢に先を越されて、悔しさや怒りを爆発させる。しかし20日放送の第9話では「これから鬼の征伐に、助太刀するわよ、黒崎がぁ」と桃太郎の歌を口ずさみながら登場、不正を暴くために必要な証拠を提供するなど、半沢に協力した。

黒崎検査官役の片岡愛之助さん

 半沢も黒崎も、仕事を通じて社会を良くしたいという強い信念を持ち、それに向かって突き進んでいるように見える。この自己実現への意欲が高い場合、脳の左の前頭前野が活発になっている状態という。

 細田さんは「自己実現の中でも特に自身への(出世や評価など)外的メリットだけに固執した行動は、集団や組織の発展や進化には結びつかない。自己実現とともに、『誰かのために』との考えをバランスよく持つことが、発展に最も近づく」としている。

 半沢とその仲間たちは、自分や自分に近い人のためだけでなく「社会のため」にも闘っているのだろう。

© 一般社団法人共同通信社