「禁庁」に変化を

 国の役所の名前には「省」が付くが、これは古代中国に由来するという。中国文学の研究者、高島俊男さんは、軽妙なエッセー集「明治タレント教授」(文春文庫)に成り立ちを書いている▲中国では古く、朝廷の役所を「禁」と呼んだ。漢の時代、皇后の父が「禁」という名前で、役人さんはこの字を用いるのをためらい、「省」に改めたという▲もし「禁さん」がいなかったら…と、高島さんは続けている。日本の外務省は「外務禁」と呼ばれていただろうか、と。「差し止める」という意味の「禁」、思えば国の役所には、この字の方が合うかもしれない▲新政権の看板政策、「デジタル庁の設置」を急ぐよう、菅義偉首相が指示した。内閣の総力を挙げるというが、壁は何よりも各省庁だろう▲例えば、マイナンバーカードを運転免許証にも健康保険証にも使えるようにし、行政手続きをスムーズにするらしいが、今は免許証も保険証も、担当は各省庁に分かれている。デジタル庁が関係部署を束ね、司令塔になることは、各省庁には権限の「引き剥がし」と映るらしい。抵抗は必至とみる向きも強い▲社会の変化に応じた、デジタル化という課題がある。縦割り行政という昔ながらの壁がある。遅まきながら、省庁ならぬ「禁庁」も変化に応じる頃に違いない。(徹)

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