【解説】事件の発端は南側公務員の不法侵入、南側政府と軍に調査、釈明する責任

不法侵入者が勤務していた漁業指導船

 北と南が向かい合う西海の海域で、南側公務員が北側の水域に不法侵入して、北側の警備兵によって射殺される事件が発生した。

 過去に何度も武力衝突があったこの地域は、小さな事件でも大きな武力衝突を招きかねない、一触即発の緊張地帯、危険地帯である。

 このため、この地域は北と南を問わず、相手側の人員が不法に侵入して不審な挙動を見せれば、相手側警備兵の発砲を覚悟しなければならない。今回は北側警備兵が発砲したが、北側人員が南側に不法侵入して取り締まりに応じず不審な挙動を見せれば、南側警備兵は発砲するだろう。

 休戦状態が続き北側と米韓がにらみ合っている軍事境界線で、相手側人員が境界線を越えて侵入し、取り締まりに応じなければ、北側、南側を問わず、警備兵は相手側の挑発と判断して、十中八九、武力で対応するだろう。西海の海域だからと言って例外ではない。

 今の朝鮮半島でこれを知らない人はいない。誰でも陸地であれ海上であれ相手側領域への侵入には、命の危険がつきまとうことを承知しているといえる。

 これが朝鮮と米韓が休戦という名の戦争状態にある朝鮮半島の現実だ。

 今回の事件は、南側の公務員が北側領域に不法侵入したことが発端になって起きた。そもそも不法侵入しなければ事件は発生しなかった。

 不法侵入した人物は公務員でこの海域で、北と南のトラブルが起きないよう指導する漁業指導員。このような人物がなぜ、北側に不法侵入してトラブルの原因を作ったのか?なぜ防止することができなかったのか?

 少なくても南側政府と軍は、最低でもその原因を究明して釈明する必要があるのではないか?

 にもかかわらず南側軍部と政府は、事実関係の確認もなしに北側を一方的に非難するプロパガンダを展開し、「蛮行」「代価」などの挑発的言辞を厭わなかった。

 周知の通り北側はこれに対して、取り締まりから射殺に至る過程を明らかにして、「北南関係において面白くない作用をすることが、われわれ側の水域で発生したこと」に「申し訳ない気持ちを伝える」通知文を南側に送った。

 膠着状態にある北南関係のこれ以上の悪化を憂慮し、文在寅大統領と南側人民に配慮した、誠意ある姿勢と言える。

 しかし、青瓦台は北側の誠意ある姿勢に答えず、「再調査」「共同調査」を云々している。一触即発の緊張海域での、不法侵入に対する取り締まりに対する「再調査」を相手側から即されるいわれはない。青瓦台の姿勢が文在寅大統領の意思なのか、軍など強硬派の要求に沿ったものなのか?

 いずれにせよ、「再調査」「共同調査」を云々することは極めて不遜なことと言わざるを得ない。

 南側の報道によれば、出港当時正常に作動していた船内の監視カメラが、いつの間にか故障して、不法侵入者の足取りを確認できなかったという。数か月前に起きた脱北者が海を渡った時も軍の監視機器が故障していたとされた。

 南側軍と船舶の監視カメラはみんなポンコツなのか?肝心な時に、一度ならともかく二度三度と都合よく“故障”が続けば、誰でも意図的ではないのか、と疑うことになる。

 一例に過ぎないが、今回の事件と関連して南側が調査し釈明すべき点が多々ある。

 青瓦台と軍はこれを棚に上げて、思い上がった態度をとるべきではない。(了)

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