「練習で規制しなければ意味がない」 肘の権威と元メジャー右腕が考える「球数制限」

肘の権威・古島弘三医師は試合以上に練習で「球数制限」をすべきと提言

肘治療の権威・古島弘三医師と元阪神エースでメジャーも経験した藪恵壹氏が語る「球数問題」

かつて日本球界では、先発投手は球数がかさんでも完投することが良しとされていたが、時の流れとともに、怪我や故障に対する考え方や投手の役割分担、価値観などが大きく変化してきた。これに伴い、現在は投手を故障から守るためにも球数制限をするべきだという考えが一般的になっている。

昨年11月、高校野球でも2020年春のセンバツから球数制限を導入し、夏の甲子園、そして地方大会でも導入することが決まった。これまで勝ち進むと1人の投手が連日200球に迫る投球をすることもあった甲子園で、球数制限が設けられることは大きな進歩と言える。だが、投手の故障を引き起こす要因となるのは、球数だけではない。

これまで計700件以上の肘内側側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)を執刀した慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師は、故障の元となる要因を4つ掲げる。

「怪我するリスクの要因としては、球数、強度、投球フォーム、あとは疲労が挙げられます。球数が少なくても、とても悪いフォームで思いきり遠投をすれば1回で壊れるでしょうし、きれいなフォームだとしても球数が度を超せば怪我をする。球数だけではなく、強度やフォーム、疲労といった複合的な要素が怪我を引き起こすわけです」

古島医師は、高校野球で球数制限が設けられることで指導者の意識が高まることに対して一定の評価をするものの、「本当なら練習中の球数は規制した方がいい」と話す。大会で100球投げただけだとしても練習期間中に過度の投げ込みをしていたら、肩肘に疲労を残したまま、試合で強度の高い投球を行うことになり、怪我のリスクは高まってしまう。

「高校野球で球数制限をするといっても、年に数回しかない大会期間中だけ規制してもしょうがない。大会で球数を規制しても、練習で規制しなければ意味がありません。どちらがいいのかと言えば、むしろ練習中の球数をしっかりと規制して、大会ではある程度は球数が増えても仕方ないという方がいいかもしれません」

古島医師が制定に尽力した画期的取り組み「スーパーポニーアクション」とは

ほぼ大人と同じ体つきになった高校生以上に、試合はもちろん、練習中の過度の投げ過ぎに気を付けなければならないのが、成長期にある小中学生だ。「骨がまだ大人になっていないので、小中学生は試合も練習もすべて規制するくらいでいいと思います」と話す古島医師は、理事を務めるポニーリーグ(日本ポニーベースボール協会)で選手の障害予防と成長のサポートを目的とする取り組み「スーパーポニーアクション」の制定に尽力した。

「スーパーポニーアクション」では、中学生年代のスポーツを対象とした団体および指導者は、第1に子どもの健康を考えること、第2に将来のための育成時期であること、と念頭に置くべきだと明記。反発係数の低い国際標準バットを導入したり、怒声罵声を伴う指導や応援にはイエローカードを出したり、様々な先進的な取り組みが定められいるが、投手の投球数についてはさらに細かい規定が設けられている。

トーナメントでは1試合あたり中学1年生は60球+変化球禁止、2年生は75球、3年生は85球を限度とし、同日の連投および投手と捕手の兼任は禁止。また、1日50球以上投げた場合は1日休養をはさむことを決まりとし、同一試合の再登板を1度だけ認めるほか、3連投を禁止している。

練習試合や練習に関しては「投球目安」を設定。練習過多も故障の要因となるため、中学1年生は1試合60球かつ週間投球数は180球(変化球禁止)、2年生は1試合70球かつ週間投球数は210球(体の負担となる変化球は禁止)、3年生は1試合80球かつ週間投球数は240球と定めた。投球数の定義としては、打者を相手としてマウンドからの投球で8割強度以上のスローイングで行われたものとし、試合前の投球練習もカウントされる。連投や兼任などの定義は、トーナメントと同じものが適用される。この他、12月と1月は極力投球を控えるよう呼びかけている。

古島医師は球数を少なく定めることのメリットについて「たくさん投手が必要になるので、ほぼ全員が試合で投手として投げる経験を積めます。中学生の時に少しでも投手経験があれば、高校に行って投手が足りない時に投げることもできますし、子どもたちの可能性が広がります」と話す。これに大きく賛同するのが、元阪神エースでメジャーでも活躍した藪恵壹氏だ。藪氏は「中学生まではきっちりルールで決めてもらった方がいい」と続けた。

藪氏が小中学生に勧めるインナーマッスルの強化、古島医師も賛同

「しっかりルールで定めてもらい、指導者はそのルールに沿って子どもたちに絶対に無理させないという意識を持たないと、子どもたちはすぐに壊れてしまいます。このくらい練習から厳格に決めてもらった方がいいですよ」

野球教室などで小中学生に指導する機会も多い藪氏だが、その時はボールを投げ込むこと以上に、肩のエクササイズを重点的に教えるようにしているという。

「僕は少年野球をする子どもたちにゴムバンドを渡して、肩のエクササイズを教えるようにしています。1日30回でいいからエクササイズをしてインナーマッスルを鍛えるように言うと、継続してやる子はほとんど肩が痛いとは言いません。僕らが子どもの頃は、お風呂の中で水圧を利用して脇を締めたまま腕を左右に動かしたり、手をグーパーグーパーと動かしたり、そんな運動をしていました」

古島医師も、この藪氏が取るアプローチを高く推奨。小学生の頃からインナーマッスルを意識して使うことが故障の予防にも繋がるとした。

「小学生はインナーマッスルを使えずに投げているので、肩を痛めることあります。インナーマッスルは肩を支えて引っ張る力がかかるので、肩を安定させるためには重要な部分です。そこに刺激を与えて、筋肉を収縮したり緩めたりできるようになれば、大きな違いが生まれるでしょう。小中学生のうちは外側の筋肉を鍛えてムキムキにするのではなく、インナーマッスルを鍛えるエクササイズを1日10回程度やるだけでも、怪我予防の効果があると思います」

成長期にある小中学生を故障から守るためにはどうしたらいいのか。古島医師は医学的見地から、これまでも各地で啓蒙活動を行ってきたが、10月10日から全6回のコースで行うオンラインサロン「開講! 古島アカデミー」第1期をスタート。野球に励む小中学生の指導者・保護者を対象に、子どもたちを怪我から守るための基礎知識を分かりやすくレクチャーする予定となっている。故障を減らし、子どもたちが持つ可能性を大きく開花させるためにはどうしたらいいのか。大人たちが果たすべき役割は大きい。

【受講者募集中】
「Full-Count」では、10月10日(土)19時より全6回のコースで行うオンラインサロン「開講! 古島アカデミー」第1期(全6回)をスタートさせます。古島医師を講師にお招きし、野球に励む小中学生の指導者・保護者の皆さんに、子どもたちを怪我から守るための基礎知識を分かりやすくレクチャー。イベント詳細は下記URLをご覧下さい。

(Full-Count編集部)

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