巨人炭谷が打者2人で察知した“中日の思惑” 戸郷1か月ぶり勝利導いた「経験値」

巨人・炭谷銀仁朗【写真:荒川祐史】

巨人の名スコアラーとして知られた三井康浩氏が解説

■巨人 5-1 中日(27日・東京ドーム)

巨人のプロ2年目・戸郷翔征投手は27日、本拠地・東京ドームでの中日戦に先発し7回4安打無失点。8月27日のヤクルト戦以来1か月ぶりの白星となる8勝目(4敗)を挙げ、新人王獲得へまた一歩前進した。かつて巨人の名スコアラーとして知られた三井康浩氏は、「戸郷を勝利に導いたのは、捕手・炭谷のリード」と指摘。相手捕手との経験の差にも着目した。

白星から1か月遠ざかっていた戸郷はこの日も、立ち上がりには不安を垣間見せた。1回、先頭の大島にカウント1-2から外角低めのスライダーを右前に運ばれ、続く京田にも3-1から148キロの外角ストレートを右前打され、いきなり無死一、二塁のピンチ。三井氏は「戸郷は外角で勝負する傾向がある。大島、京田は明らかにそれを狙っていました」と見た。

しかし、ここでプロ15年目・33歳の炭谷が機転を利かせる。3番アルモンテをカウント1-0から、内角高めの147キロ速球で詰まらせ二飛に。続く4番ビシエドの初球には、内角へ146キロ速球を配してストライクを取り、そしてカウント0-2から3球勝負。内角低めの149キロで見逃し三振に斬って取った。続く高橋も内角スライダーで投ゴロに仕留め、無失点で切り抜けたのだった。

三井氏は「炭谷が中日サイドの外角狙いを察知し、さらにこの日の戸郷のストレートの勢いであれば押し込めると判断して、一転して内角勝負を挑んだのでしょう。実際、この日の戸郷のストレートは、球速こそ140キロ台にとどまっていましたが、空振りやファウルを稼げる球威があった。このあたりは経験豊富な炭谷ならではのリードでしょう」と称賛する。

相手の傾向はスコアラーが偵察・分析し、試合前に選手へ伝えるが、選手にはグラウンド上で相手の狙いを察知し裏をかく対応能力も求められる。また、炭谷は戸郷が今季先発した全13試合でバッテリーを組んでおり、能力を把握し、その日の調子を瞬時に判断できる背景もあった。

新人王の資格を持つ戸郷はこれで、8勝4敗、防御率2.70。一方、ライバルの広島・森下は6勝3敗、防御率2.63で、一歩リードした格好だ。

三井氏は中日・木下拓のリードを指摘「よく相手の裏をかいて内角勝負を挑むが…」

一方、中日の先発マスクを被ったのは、5年目・29歳の木下拓。前日26日の同カードでは、打っては同点の8回に決勝2号ソロを放ち、守っては9回にセ・リーグ2位の16盗塁を誇る代走・増田大の二盗を阻止して、お立ち台に上がった。強肩とパンチ力ある打撃で、新人の郡司らとのレギュラー争いから一歩抜け出そうとしている捕手だ。

しかし、この日は2点ビハインドの5回。2死一、二塁で4番・岡本を迎え、ここで登板した2番手・又吉にカウント2-2から、内角シュートを要求した。ボールは図らずも真ん中に入り、岡本に右前へ弾き返され、痛恨の追加点を奪われた。

三井氏は「木下はこういう場面でよく、相手の裏をかいて内角勝負を挑みますが、頭の中だけで配球を組み立てるのではなく、状況や、投手がそこへ投げ切れるかどうかを考えなければならないと思います。又吉は細かいコントロールより、球威や変化球の切れで勝負するタイプ。あの緊迫した場面で内角を要求すると、むしろ甘く入るリスクが高かったのではないか」と疑問を呈した。

「自分が要求したのと違うコースへ投げたピッチャーが悪い」では済まないのが、捕手の難しいところ。この日は経験に勝る炭谷を擁する巨人に軍配が上がった格好になった。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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