『生きちゃった』家族とは何か?を痛切に問いかける

(C) B2B, A LOVE SUPREME & COPYRIGHT @HEAVEN PICTURES All Rights Reserved.

 新境地を見せた『町田くんの世界』に続く石井裕也の新作だ。厚久は奈津美と結婚して、5歳の娘がいる。親友の武田とは、一緒にビジネスを立ち上げる夢があった。3人は高校時代からの幼なじみだったが、奈津美の不倫が発覚し、離婚まで切り出される。これは、そこから始まる物語で、石井監督のオリジナル脚本。妻や子供に面と向かって「愛している」と言えない“日本人論”が、衝撃と感動をもって描かれる。

 家族は、石井作品の重要なモチーフだ。その点で傑作『ぼくたちの家族』を明確に継承し、家族とは何か?を痛切に問いかける。一方で(家族を扱いながら)、夜の屋外のシーンが多用され、『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(これも傑作!)が思い出される。本作は、「原点回帰、至上の愛」を謳ってアジアの精鋭監督たちが競作するプロジェクトの一環なのだが、原点回帰というよりも集大成、あるいは凝縮されたエッセンスという印象を受ける。

 ただし、物足りない点も。彼のスゴイところは、独特のカリカチュアと日本人離れした笑いのセンスだと思うから。その意味では、日本人で唯一ポン・ジュノに対抗できる才能ではないだろうか。人間を諧謔的に見る視点は今回もあり、厚久の行動は冷静に考えると確かに滑稽ではある。だが、石井裕也の力量を持ってすれば、それを“笑い”にまで昇華できたはずだ。『町田くんの世界』が感動的なまで笑えたように。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:石井裕也

出演:仲野太賀、大島優子、若葉竜也

10月3日(土)の東京・ユーロスペースを皮切りに全国順次公開

© 一般社団法人共同通信社