『ある画家の数奇な運命』G.リヒターをモデルに芸術の本質、才能を描く

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 『善き人のためのソナタ』のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクらしい新作だ。初長編でいきなり外国語オスカーを射止めた名高い出世作も音楽へのリスペクトに満ちていたが、今回も芸術への愛に涙せずにはいられない。と同時に、娯楽性が豊かなところも共通する。3時間超があっという間なのだ。

 もちろんそれは、演出面にも言えること。「見る」「覗く」という行為がピン送りなど技巧を凝らして強調され、光や色彩の横溢と相まって画家がデッサンする際の身振りと呼応する。出世作で見せた“監視”の描写と比べても、洗練度を増している印象を受ける。

 主人公のモデルとなったのは、現代ドイツ最高峰の画家とされるゲルハルト・リヒターだ。最愛の叔母を奪われたナチ時代から、叔母の面影を持つ女性との恋、西ドイツへの亡命、才能の開花…その数奇な半生を通して芸術の本質、才能とは何かに迫っている。

 特筆すべきは、叔母をガス室へと送った張本人が、妻の父親だと早々に分かる展開。倒叙ミステリーのように観客だけがそれを知っていて、主人公や妻(あるいは義父)が、いつ、どうやって衝撃の事実に気づくのか? それが終盤までサスペンスを持続させるのだが、期待は見事に裏切られる。というより、我々の予想を超えてみせるハリウッド的ではない結末。政治的なのに政治的でない芸術賛歌のラストが、切なくも温かな感動で観る者を包み込む。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク

出演::トム・シリング、セバスチャン・コッホ、パウラ・ベーア、ザスキア・ローゼンダール

10月2日(金)から全国公開

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