歴代首相の出身県を詳細に分析してみます。かすりもしないのはアノ県…。(歴史家・評論家 八幡和郎)

福島を視察した菅総理(首相官邸Facebookより)

菅首相は秋田県出身で、東京での学生生活とその後の短い期間のあと横浜で活動し神奈川から代議士になった。

総理官邸のHPには歴代総理の経歴が掲げられているが、以前は「出生地」という欄があった。しかし、宮沢・羽田・橋本が東京生まれであるにもかかわらず選挙区を出生地としていたのを私が「歴代総理の通信簿」(PHP文庫)で指摘したりしていたら(ほかにも指摘した人がいるかもしれないが)、「出身地」として戦前はそのまま出生地にして戦後は選挙区に変えて出している。まだ、菅義偉の欄はない。

たしかに出身地といっても何をさすか難しい。出生地は日本では公開されていないし(海外では出生証明が大事なので隠すような性質のものでない)、本籍も同様だ。住んでいる場所を離れて母親の実家の近くで出産という人も多いが、本人は住んだことがないのでぴんとこない。だから生まれたときの住所とか、育った場所のほうがいいという考え方もある。しかし、ここではあえて、明治維新の頃にいた場所という考え方で伊藤博文から安倍晋三まで分類してみよう。

いちばん多いのは、山口県だが、長州藩の上級武士出身は桂太郎だけだ。伊藤博文は農民だったその父親が中間の養子になり、その中間が足軽になった。中間は足軽より下の階層で、山縣有朋もそうだ。田中義一も藩主の籠かきだ。岸信介や佐藤栄作は武士には違いないが萩でなく地方にいたらしい。安倍家は長州藩士でなく醤油屋で大庄屋。

意外に多いのが岡山だ。犬養毅は庭瀬の大庄屋。橋本龍太郎は総社市の素封家。但し、龍太郎は東京生まれ東京育ちだが父親の地盤を引き継いだ。鳩山家は真庭市にあった勝山藩の中級武士の末裔。ただし、一郎も由起夫も東京生まれで、一郎は東京が選挙区だったが、由起夫は北海道。菅直人は父親が岡山出身で本人は山口の宇部で生まれ高校の途中まで過ごした。選挙区は東京。

岩手県は原敬、米内光政、東条英機が盛岡藩士。原敬は近江浅井家分家の上級武士で岩手選出。東条家は三重県夕張にルーツをもつ能役者だったが。加賀藩を経て盛岡藩へ。祖父の代に武士になった。本人は父親が軍人だったので東京生まれ。鈴木善幸は漁民。斎藤実は水沢の仙台藩陪臣出身。

旧国名の日本地図

あとは、北から言うと、小磯国昭は父親が山形県新庄藩士で警官となり栃木で働いているときに宇都宮で生まれた。山形と栃木か微妙。群馬はおなじみ福田赳夫(養蚕農家)、中曽根康弘(材木商)、小渕恵三(企業経営者)の三羽がらすに、福田赳夫の子の康夫で、康夫は東京生まれ。千葉は鈴木貫太郎。関宿藩士だが、大阪郊外の飛び地で生まれた。東京は、高橋是清が幕府の絵師の子で仙台藩江戸屋敷の足軽の養子になった。選挙は原敬のあと岩手で出たことがある。

新潟は田中角栄。農家だ。富山は野田佳彦の父親が富山県出身の自衛官で本人は千葉県生まれで選挙区も同様。石川県は、加賀藩士から林銑十郎に阿部信行。森喜朗は農民出身。福井は福井藩士から岡田啓介。長野県は羽田孜の父は長野県出身の新聞記者で代議士。東京で生まれたが選挙区は長野。山梨は石橋湛山は東京生まれだが父親は山梨出身の僧侶。選挙区は全く縁もゆかりのない静岡県沼津市を支援者の斡旋で。

愛知県は加藤高明と海部俊樹。加藤は尾張藩出先機関の役人。海部は中級武士の系統。滋賀県は宇野宗佑が造り酒屋の出身。京都は近衛文麿は東京生まれだが公家、西園寺公望は京都生まれの公家、東久邇宮は京都生まれの皇族。芦田均は京都府福知山の造酒家。大阪は門真の素封家出身の幣原喜重郎がいる。和歌山からは片山哲が和歌山の田辺から出て選挙区は神奈川。

島根は松江藩足軽の若槻礼次郎と造酒家の竹下登。広島は広島藩士の加藤友三郎、造酒家の池田勇人、父親が備後から出て苦学して長野県の政治家の娘婿になったという宮沢喜一だ。宮沢は東京生まれだ。香川は大平正芳、徳島は三木武夫。いずれも地元の農家。高知は浜口雄幸が郷士の子で地元選出。吉田茂は家老伊賀氏につかえた武士出身で代議士だった竹内綱の子として東京で生まれる。越前藩士で長崎を経由して横浜で成功した貿易商の養子となったが、選挙にでるときは高知を選んだ。

福岡は博多の石工の子である広田弘毅(選挙には出てない)と炭鉱会社経営の麻生太郎。熊本は僧侶の子の清浦奎吾(選挙には出ず)と熊本藩主の子孫の細川護熙。生まれたのは東京だ。佐賀は大隈重信でこれは三百石取りの上級武士だ(選挙出ず)。大分は漁師の子の村山富市。鹿児島は下級武士の子である黒田清隆、松方正義、山本権兵衛(いずれも選挙です)。それから、小泉純一郎もここで取り上げておく。父親の純也は、南さつま市出身で横須賀選出の代議士の婿養子になった。しかし、戦前は純也は鹿児島選出の代議士で戦後、義父の地盤である横須賀に移動。

こうして観てくると、ご先祖の出身地、本人の出生、育った場所、選挙区などどれをとっても、かすりもしない都道府県は、青森、宮城、福島、茨城、埼玉、長野、岐阜、三重、奈良、兵庫、鳥取、愛媛、長崎、宮崎、沖縄。

ちょっと意外な感じは、兵庫と愛媛と宮城あたりか。石原慎太郎がなれば愛媛がルーツで兵庫県生まれだったが。兵庫は小池百合子さんをはじめあちこちの都道府県に知事は出しているのに不思議だ。長州がなぜ多いかなどは、また、回を改めて分析してみよう。

 

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