コロナ下の営業 リスク恐れず積極支援 【連載】十八・親和 合併の行方 新銀行発足編<5・完>

十八銀行の若手行員と会話を交わす山内さん(右)=長崎市京泊3丁目、長崎魚類仲卸協同組合

 銀行に助けられた-。長崎商工会議所副会頭の佐々木達也は、新型コロナウイルス危機下で多くの地元経営者から、この言葉を聞いた。
 かつて公正取引委員会は十八銀行と親和銀行の合併に「不当な金利引き上げなど弊害が懸念される」と難色を示した。両行は借り換え(債権譲渡)によるシェア圧縮と併せて、第三者委員会による年2回のモニタリング(監視)を受け入れると提案し、承認にこぎつけた。佐々木は弁護士らと委員に選ばれ、地域の声を反映させる役を任された。
 政府の中小企業支援が後手に回るのとは対照的に、両行は3月から、県内約2万2千社の全取引先にニーズを聞き取り、「今まで以上に迅速かつ積極的に。リスクを抱えても支える」(十八幹部)と資金供給。8月末時点で寄せられたコロナ関連の相談は7千件、融資額は承認ベースで1千億円に達した。
 「小さい企業も多くが『行員がよく来てくれる』『対応が早くて驚いた』と評価していた」。佐々木の所見や金利の動向を踏まえ、第三者委は6月、十八がふくおかフィナンシャルグループ(FFG)入りした初年度をこう総評した。「弊害は発生していない」「感染拡大は地域経済に大きなダメージを与えているが、支援態勢ができているのは経営統合の効果」
 コロナの影は新長崎漁港にも及んだ。長崎魚類仲卸協同組合によると、スーパーへの需要は伸びたが、東京・大阪の居酒屋や料亭向けなどが激減。1キロ7千円前後する伊勢エビが一時2500円前後に落ち込んだ。
 地元の十八長崎漁港支店は全取引先に繰り返し接触。隣接する親和の支店とも情報を共有、手分けした。リモート(遠隔)通信設備のない企業がまだ多く、面談時には感染予防に気を使う。緊急事態宣言後の4月下旬は、資金繰りが切迫した企業の悲鳴を聞いた。十八の支店長、丸石健治(48)は「この未曽有の事態に十八単独ではなく、FFGの資金力やノウハウを提供できるのは大きい」と話す。
 同組合代表理事の山内一弘(62)は、自身が経営する会社で20人の雇用を守り、取引先から入金が滞る事態にも備えて、十八の融資を受けた。だが、求めるのはそれだけではない。販路開拓や働き方改革などに関する鮮度の高い情報だ。「どの経営者も不安を抱え、相談に乗ってほしいはず。銀行あっての商売人だ」。事務所を訪れた20代行員にそう伝えると、彼は恐縮しながら返した。「いえ。商売人さんあっての銀行です」
 FFGは十八との経営統合時、県民とともに「長崎に全力」を尽くすというスローガンを掲げた。10月1日、きょう誕生する「十八親和銀行」の行方は、郷土の未来と重なっている。
=文中敬称略

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