『劇場版 BEM ~BECOME HUMAN~』は妖怪人間ベムからBEMワールドまで楽しめる「ベストアルバム」だ!

『劇場版 BEM ~BECOME HUMAN~』© ADK EM/BEM製作委員会

「早く人間になりたい!」というフレーズを聞いたことがあるだろうか。妙に心に残る(と言うか一度聞いたら三日は忘れられない)この言葉は、かつてアニソンがアニソンらしかった(作品のタイトルやキャラクターの名前が必ず出てくる)1968年に『妖怪人間ベム』の主題歌の中で唄われたものである。その後もコマーシャルで使用されたことや、作品がリメイクやリブートされたことで未だに命脈を保っている「早く人間になりたい!」だが、これがなかなか含蓄(がんちく)に富んだ意味深い言葉であることが『劇場版 BEM ~BECOME HUMAN~』を見ると分かるのだ。

「はやく人間になりたい」『妖怪人間ベム』リブート版映画『劇場版 BEM 〜BECOME HUMAN〜』2020年秋に全国公開!

『劇場版 BEM ~BECOME HUMAN~』© ADK EM/BEM製作委員会

アニメ・映像界に連綿と脈打つ「BEMワールド」

1968年にスタートした『妖怪人間ベム』は、今回の作品までの50年間で以下のような映像世界を築き上げてきた。

①テレビアニメ化
・1968年『妖怪人間ベム』26話
・1982年『妖怪人間ベム』パート2。2話まで制作されたが諸般の事情によるシリーズ化ならず未遂に終わる。
・2006年『妖怪人間ベム HUMANOID MONSTER BEM』26話
・2017年『俺たちゃ妖怪人間』ショートアニメ50話
・2019年『BEM』12話

②実写化
・2011年テレビドラマ『妖怪人間ベム』10話。亀梨和也主演
・2012年『映画 妖怪人間ベム』亀梨和也主演
・2020年配信ドラマ『妖怪人間ベラ ~Episode 0~』10話
・2020年スピンオフ映画『妖怪人間ベラ』森崎ウィン主演

そして初のアニメ映画化となるのが、今回の『劇場版 BEM ~BECOME HUMAN~』なのである。

妖怪人間ではあるものの、その特異な能力を悪用されようとするベム、ベラ、ベロの存在はマーベルコミックの「X-MEN」などに通じるものがあり、その多様な展開はある意味マーベル・シネマティック・ユニバースならぬBEMワールドといった趣きがあると言えるだろう。

『劇場版 BEM ~BECOME HUMAN~』© ADK EM/BEM製作委員会

そして、そのBEMワールドの世界観が明確になったのが2019年のリブート作品『BEM』からである。このシリーズで、それまでの『妖怪人間ベム』のスタイルを一新させたのは、主題歌・エンディングテーマを椎名林檎とDragon Ashの降谷建志が作詞・作曲したという事実を見てもわかるであろう(歌は坂本真綾とJUNNA)。

※TVアニメ「BEM」を 2分で振り返るスペシャルPV

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妖怪人間ベムからBEMに至る世界観を「ベストアルバム」としてまとめた『劇場版 BEM ~BECOME HUMAN~』

そうしたBEMワールドにおいて、今回の『劇場版 BEM ~BECOME HUMAN~』はどのような位置づけを持つのか。それを一言で表すならば、妖怪人間ベムの50年間の「ベストアルバム」なのである。この映画を見れば、1968年の『妖怪人間ベム』から『BEM』に至る世界観を理解できるだけではなく、ベム、ベラ、ベロ誕生の秘密まで解き明かされるからだ。

『劇場版 BEM ~BECOME HUMAN~』© ADK EM/BEM製作委員会

今回の舞台は、『BEM』で起こったリブラシティの事件から2年後、行方不明となったベムたち妖怪人間の行方を探し続けていた刑事ソニア(Vo:内田真礼)が、目撃情報をもとに<ドラコ・ケミカル>という製薬会社を訪れるところからはじまる。そこで出会ったのは、たくましく成長し、たった一人で悪と戦い続けるベロ(Vo:小野賢章)、戦いを拒み普通の女の子として暮らしを望むベル(Vo:M・A・O)、そして、ベムとしか思えない“ベルム”(Vo:小西克幸)という男だった。

『劇場版 BEM ~BECOME HUMAN~』© ADK EM/BEM製作委員会

ところが、誰よりもベムの理解者であるはずのソニアは、彼のことを「私の知っているベムではない」と言う……。

『劇場版 BEM ~BECOME HUMAN~』© ADK EM/BEM製作委員会

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『劇場版 BEM ~BECOME HUMAN~』の魅力とは

今回の劇場版は、『BEM』のミステリー仕立てなストーリーラインにますます磨きがかかった。だが、一番の魅力は何と言っても、リブートで生まれ変わったベム、ベラ、ベロのスタイリッシュなキャラクターであろう。この三人に、刑事ソニアに上司のジョエル・ウッズ(Vo:乃村健次)や人間改造フェチのマッドサイエンティストDr.リサイクル(Vo:諏訪部順一)、さらには豪華声優陣が演じるゲストキャラでBEMワールドを形成している。

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『劇場版 BEM ~BECOME HUMAN~』© ADK EM/BEM製作委員会

ドラコ・ケミカルで働くうだつの上がらないベルムの上司だが、実は妖怪人間誕生のキーマンであるマンストール(Vo:山寺宏一)、謎を抱えるベルムの妻エマ・アイズバーグ(Vo:水樹奈々)、ノリの軽いお調子者だが中味はドロドロした欲望の塊であるバージェス・オルセン(Vo:宮田俊哉)、ドラコ・ケミカルの社長(Vo:高木渉)、その秘書グレタ・リード(Vo:伊藤静)など、一癖も二癖もある登場人物が虚々実々のドラマを繰り広げる。

並み居るトップ声優陣に混ざって唯一のボイス新人である宮田俊哉だが、とても初挑戦とは思えない出来映えだったのは、なるほど“ジャニーズは努力が9割”(霜田明寛著/新潮選書)にあった通り、ジャニーズの本質は努力にあったからだろう。

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もう一点の見所は、大迫力のアクションである。今回からアニメ制作の担当がプロダクションI.G.となった。日本を代表するアニメスタジオであるI.G.の得意技は、なんといっても『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズ(2002年~)や『PSYCHO-PASS サイコパス』(2012年~)に見られるハードなアクションである。魅力的なキャラクターはもちろんだが、その凄まじいまでの動きはハリウッド映画にも見劣りすることはない。

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『劇場版 BEM ~BECOME HUMAN~』© ADK EM/BEM製作委員会

「自我」を貫くダークヒーロー

BEMとは果たして何か? 実は、BEM誕生には「自我」が深く関係しており、三人がダークヒーローとなった重要な要因となっている。妖怪と呼ばれながらもベムは人間より人間らしい心を持っており、「美女と野獣」の野獣を思い出せるものがある。質素で平凡な生活を求める彼の姿にはあたかも宮澤賢治のようなストイシズムが感じられるが、人間になることを願う彼が選び取る未来は、一体どのようなものなのか?

『劇場版 BEM ~BECOME HUMAN~』© ADK EM/BEM製作委員会

文:増田弘道

『劇場版BEM~BECOME HUMAN~』は2020年10月2日(金)より全国公開

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