【F1第10戦無線レビュー(2)】ペナルティを受けても前向きなリカルド「オーケー、じゃ、これからもっと速く走ってやろう」

 F1第10戦ロシアGPではルイス・ハミルトンとメルセデス以外のドライバーたちも、クラッシュやペナルティにより慌ただしい無線のやりとりを行っている。今回は他のドライバーたちに焦点をあてた無線のやりとりを振り返る。

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 第10戦ロシアGPは、ハミルトンとメルセデスの無線以外にも、興味深い交信がいくつもあった。

 まずマクラーレンだ。スタート直後の最初のブレーキングゾーンとなる2コーナーでカルロス・サインツJr.が止まりきれずにラン・オフ・エリアに飛び出す。合流する直前にコンクリートウォールに左フロントタイヤを激しくぶつけてしまった。

サインツ:*。みんな、ごめん。本当に悪かった

マクラーレン:だいじょうぶか。とりあえず、スイッチをすべて切ってくれ

 3コーナーのコース上はサインツのマシンと壊れたパーツが散乱し、後方は大混乱。直後を通過したチームメイトのランド・ノリスが、間一髪でサインツのマシンを避けたのはマクラーレンにとって不幸中の幸いだった。

2020年F1第10戦ロシアGP カルロス・サインツJr.(マクラーレン)

ノリス:クルマをチェックしてくれ。カルロスの大量のデブリに乗ってしまった

マクラーレン:わかった。いまチェックしている。

ノリス:いったい、カルロスはどうしたの? ターン1(正確にはターン3)でヒーローにでもなろうとしていたのかよ? ああ、今度は別のクルマ(4コーナーを立ち上がったところでストロールがクラッシュ)が止まっている。セーフティカーだな

 サインツの事故の後、4コーナーを立ち上がったところでランス・ストロール(レーシングポイント)の右リヤタイヤとシャルル・ルクレール(フェラーリ)の左フロントタイヤが接触。ストロールのマシンだけがコントロールを失い、コンクリートウォールにクラッシュした。

ストロール:くそ、当てられたよ

レーシングポイント:戻って来れたら、戻ってこい、ランス

ストロール:ダメだ。終わった。もうおしまいだ

レーシングポイント:わかった、ランス。いまセーフティカーが出た。とりあえず、マシンのすべてのスイッチを切ってくれ

ストロール:(エンジンを)切った

レーシングポイント:違う。すべてのスイッチを手前に引いてくれ。そして、ランプの上に持ち上げるんだ

ルクレール:ランスとぶつかった

フェラーリ:わかった。いまセーフティカーが出た。スローボタンを押してくれ。それから、マシンにダメージがないか、チェックしてくれ

ルクレール:だいじょうぶそうだ。でも、接触はコーナーの出口でランスがこっちに幅寄せしてきたからだよ

フェラーリ:了解。ステイアウトだ。いまP8だ。

■フェルスタッペンはミディアムタイヤに苦戦

 ちなみにセーフティカーランのとき、ノリスはマシンの不調を訴え始める。

ノリス:間違いなく、何かがおかしい。ステアリングが重くなったり、軽くなったりするんだ。特に右に切ったときにおかしい

 大混乱の1周目に、18番手スタートから9番手までポジションを上げたのがケビン・マグヌッセン(ハース)だ。

ハース:すごいヤツだ。OK、いい仕事をしたぞ、ケビン。本当にすごいぞ

 この後、マグヌッセンは1回目のピットストップまで入賞圏内を走行したものの、最終的に12位に終わった。1周目からセーフティカーが出たレースは、6周目に再開。しばらくして、フェルスタッペンがこんな叫びが。

2020年F1第10戦ロシアGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)

フェルスタッペン:リヤのグリップが全然ない。とんでもないことになっている

 このとき、フェルスタッペンが履いていたタイヤはミディアムで、ほかの多くのドライバーが履いていたソフトよりも長い周回を安定して走ることができるはずだったが、フェルスタッペンは予定よりも早めにピットストップし、ハードにタイヤを交換することで打開策を図ることとなる。

 しかし、そのころメルセデス陣営も慌ただしかった。というのも、先頭を走るハミルトンはソフトタイヤでスタートし、2番手のバルテリ・ボッタスはミディアムだったからだ。さらに3番手のフェルスタッペンがリヤのグリップ力不足を訴えてきた10周目前後は、ボッタスとの差はまだ1秒程度だった。そこでボッタスとハミルトンに指令が飛ぶ。

メルセデス(ボッタスへ):ルイスとのギヤップを縮め始めてくれるかな

メルセデス(ハミルトンへ):ペースをもう少し上げてほしい。タック(戦略)3なので、タイヤはもう使い切ってしまっていい

 この直後に、ピットストップが近いことを察知したハミルトン「僕を早めにピットインさせないで」と無線するが、この段階でメルセデス陣営はチームとしてこのレースで優勝することを最優先に考えていたようだ。

 そして、それはハミルトンではなく、ボッタスだった。ペナルティを受けて大きく脱落することがわかっているハミルトンは、ソフトタイヤでペースが落ちることがわかっていた。ハミルトンがペースダウンすれば、ボッタスもペースが落ち、フェルスタッペンにアンダーカットされる恐れがある。ならば、ハミルトンはタイヤが終わって、ペースダウンした時点で迷わずピットインさせるというのがメルセデスの戦略だったに違いない。

 この日のレースは、2コーナーを不通過したことでペナルティを科せられたドライバーが続出した。そのひとりがダニエル・リカルド(ルノー)。その件に対するリカルドとルノーのやりとりは、ハミルトンとメルセデスとは対照的だった。

ルノー:ターン2の件で、5秒のタイムペナルティを科せられた

リカルド:オーケー、じゃ、これからもっと速く走ってやろうじゃないか

ルノー:ありがとう。恩に着るよ

リカルド:だって、自分のせいだからね。自分で始末しなきゃ

■周りの批判に不満が募っていたボッタス

 ピエール・ガスリーとアルファタウリの無線も、両者がイタリアGPで優勝して以来、両者の絆が一層深まっていることをうかがわせるものだった。

2020年F1第10戦ロシアGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)

ガスリー:ギャップを教えてほしい

アルファタウリ:後ろのノリスとの差は3.2秒だ

ガスリー:後ろじゃないよ。前とのギャップだよ

アルファタウリ:5秒前方に(エステバン・)オコン(ルノー)がいる。オコンが5秒前方だ

ガスリー:ああ、わかった。でも、いま、ザウバー(キミ・ライコネン/アルファロメオ)に引っかかったちゃったよ

 その後、ガスリーはオコンをオーバーテイクできず、レース終盤にバーチャル・セーフティカー(VSC)が出たタイミングで2度目のピットイン。タイヤを替えて逆転を試みるというギャンブルに出る。そして、その目の前に43周目に現れたのが、アレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)だった。

アルファタウリ:OK、ピエール。レッツ・ゴー。今日のわれわれに相応しい結果を手に入れようぜ

 45周目にアルボンをオーバーテイクすると、今度は別のターゲットを目指す。

ガスリー:ファステストラップはいま何秒

アルファタウリ:37.7秒だ

ガスリー:OK、やってみるよ

 果たして、50周目に1分37秒231を叩き出したガスリー。

ガスリー:ファステストラップを更新できた?

アルファタウリ:ああ、いま更新したけど、ノリスもいまアタックしている。また連絡する。あっ、でも、いまボッタスがいま(ガスリーのファステストラップを)コンマ2秒更新してしまった。それでも9番手からスタートし、荒れたレースで9位でフィニッシュした。

 優勝したボッタスもまた、チェッカーフラッグ後にさまざまな思いが込み上げ、こう叫んだ。

メルセデス:やったな

ボッタス:やったぜ。イエーーース!! 僕のことを批判してきた人たちに感謝のメッセージを贈るいい機会だ。f*you!(くたれめ)

ボッタス:ネバー・ギブ・アップ

メルセデス:そうだな、ネバー・ギブ・アップだ

 この言葉の真意をレース後の会見で尋ねられたボッタスは、これはメディアなど特定の人に向けられたものではなく、SNSも含め、ボッタスを批判してきた人たちに対して向けて、自然に出たメッセージだったと語っている。

 この日のメルセデスは3位に終わったハミルトンも、勝ったボッタスも、少し口が過ぎる発言が多かった。

2020年F1第10戦ロシアGP バルテリ・ボッタス(メルセデス)

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