楽天と首位ホークスの差は? 元ヘッドが指摘した細かいプレー「牽制死だけは…」

楽天・辰己涼介【写真:荒川祐史】

ベテラン藤田がバント失敗、代走・辰己が9球目の牽制球で誘い出されて牽制死

■ソフトバンク 4-1 楽天(1日・楽天生命パーク)

パ・リーグ3位の楽天は1日、本拠地・楽天生命パークで首位ソフトバンクに1-4で逆転負けを喫し、7年ぶりのリーグ優勝が遠のいた。7回の攻防では、バントなど細かいプレーで両チームの明暗が分かれた。かつて巨人の1番打者として活躍し盗塁王を2度獲得、“青い稲妻”の異名を取り、2006年には楽天のヘッドコーチを務めた松本匡史氏が解説する。

ソフトバンクは1点ビハインドで迎えた7回、楽天2番手の松井を攻め、栗原の右越え適時二塁打で追いつき、なおも1死三塁。ここで甲斐がカウント1-1から、見事に決勝スクイズを決めた。

対照的だったのは、その裏の楽天の攻撃だ。相手先発の石川に対し、1点差を追い先頭の銀次が四球で出塁。三木監督は7番でスタメン出場していた高卒ルーキーの黒川に代え、38歳の藤田を代打に送った。プロ16年目で通算233犠打を決めている藤田は、事実上の“ピンチ・バンター”だった。

ところが、藤田は石川の投球を3度ファウルにし、3バント失敗で走者を二塁へ送れず。松本氏は「プレッシャーがかかる場面だった上、今季の藤田は出場機会に恵まれず、とりわけバントの機会は少なかった。気の毒な状況だったが、それでも、なんとしても決めなければならない場面ではあった」と言う。

また、楽天ベンチは、藤田が初球をバントしてファウルにした後、2球目の直前になって、一塁走者を銀次から俊足の辰己に代えた。松本氏は「本来なら、最初から代走を送る場面だったと思います。そうなると、相手バッテリーは盗塁、エンドラン、バスターなど、あらゆる作戦を警戒しなければならなかった。送りバントが見え見えになってから代走を送り、相手を楽にさせてしまったのは残念でした」と指摘する。

こうして、場面は1死一塁に。ここでソフトバンクは投手を左腕の嘉弥真にスイッチした。楽天は右の代打・内田が登場。そしてカウント2-2から、一塁走者の辰己が牽制球に誘い出され、必死に二塁へ走ったが、ボールは一塁手・中村晃から二塁手・周東へ転送され、タッチアウトとなりチャンスを芽を摘んでしまったのだった。

代走の盗塁死と牽制死は「同じように見えて大違いです」

実際にアウトになるまでに、ソフトバンク側は辰己の足を警戒し、しつこいくらい牽制球を投じていた。藤田の打席中に石川が2球、嘉弥真は7球。辰己が誘い出されたのは、なんと9球目の牽制球だった。

シーズン76盗塁(1983年)のセ・リーグ記録保持者でもある松本氏は「この場面で、辰己が絶対に避けなければならなかったのが、牽制でアウトになることでした。捕手の二塁送球で刺されるのなら諦めがつくが、牽制死では味方の士気が下がる。そこは同じように見えて、大違いです」と語る。辰己の場合、記録上は「盗塁死」だが、状況は牽制死同然だった。

送りバントが決まらなかったことで、ぜひとも二盗を成功させたいシチュエーションとなり、辰己にしてみれば相手はスタートを切りにくい左投手。しつこく牽制球を投じられ、重圧は増すばかりだっただろう。それでも松本氏は「リードを少し小さめにすれば、あそこまでは牽制されず、結果的にスタートを切りやすかったかもしれない。また、相手の守備隊形によっては、投球がホームベースを通過する瞬間を目安に、虚を衝いてスタートを切るディレードスチールという手もあった」と選択肢を示す。結局、楽天は続く8、9回にソフトバンクに加点され、点差を広げられた。

楽天打線は1日現在、いずれもリーグトップのチーム打率.257と422得点を誇る。しかし、ソフトバンクを引きずり下ろし優勝を手にするには、もう一歩、細かいプレーの徹底と工夫が必要なのかもしれない。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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