<南風>初学者に漢方の“奇跡”

 広島の小川外科の見学から八重山病院に戻ると、患者の付き添いの方が隣のベッドに横になっていた。看病疲れの腰痛で動けなくなったという。そこで、うつぶせになってもらい、背骨の両側の、指で押して痛む部位に何カ所か針を刺しておいた。回診を終え、その方の針を抜いたら、彼女はすぐに起き上がって座り、「先生治りました」と言われ、私の方がびっくりした。

 また漢方の入門書で死にそうな人が生き返る四逆湯(しぎゃくとう)というトリカブトの入った処方を知り、漢方薬局で調剤してもらい保管していた。ある時内科の先生が「漢方で何とかなりませか」と応援を求められた。悪性リンパ腫の患者さんに抗がん剤の治療をしたところ、副作用で高熱が出て全身を痛がり、吐き下して食事がとれず、痛み止めも効かないという。点滴をされ、鼻から管を通し、ろくに返事もできない。

 私は四逆湯を煎じて午後4時頃その患者さんに飲んでもらった。翌日の午後、患者の病室へ行ってみると、ニコニコ笑って座っている老人がいた。「昨日ここにおられた元気のない方はどこに行かれたのですか」と聞くと、「先生あの薬は2時間で効きました」と本人だった。起死回生の神効があるというのは嘘(うそ)ではなかったと実感した。

 また重症の糖尿病で栄養状態が悪く、足先が壊死(えし)に陥った方がいた。足を手術したが傷の治りが悪い上、寝て圧迫したところに床ずれで水疱(すいほう)ができる悲惨な状態だった。千金内托散(せんきんないたくさん)という煎じ薬を飲んでもらうと傷が治り、水泡もできなくなった。80代の女性は胃全摘をした後、高熱が出たが熱の原因がわからない。手足が冷たく、水のような下痢をしているので四逆湯を飲ませると翌日から解熱した。

 漢方の威力を目の当たりにし、勉強に勢いがついた。

(仲原靖夫、仲原漢方クリニック院長)

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