KONDO RACINGと日産自動車大学校の挑戦が結実。「嬉しいんだけど、ちょっと遅かったね(笑)」と近藤真彦監督《第5戦富士GT300決勝あと読み》

 2020年10月4日。ひさびさにグランドスタンドを多くのファンが埋めるなか、スーパーGT第5戦富士でジョアオ・パオロ・デ・オリベイラが駆るリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rが激戦のGT300クラスでついにトップチェッカーを受けた。2018年10月1日、東京都中央区銀座のNISSAN CROSSINGで近藤真彦監督が日産自動車大学校との合同プロジェクトとともにGT300挑戦を開始することを表明してから、ちょうどほぼ2年というところでの栄冠となった。

「真のクルマ好き人財、組織に通用する人財の発掘をモータースポーツを通じて実現していく」──。2012年、日産自動車大学校とKONDO RACINGがスタートさせたプロジェクトは、学生やディーラーメカニックがモータースポーツの世界でレースを通じさまざまな技術やチームワークを学ぶという非常にユニークなプロジェクト。当初、スーパー耐久ST-Xクラスを舞台に活動を続けていたが、2019年からスーパーGTに舞台を移すことを表明したのが2018年10月1日のことだった。

 ピット内におそろいの作業着を着た学生たちが働くさまは、スーパー耐久でも異色の存在であり、2019年にスーパーGTに参戦を開始してからも、やはりかなり目立つ存在だった。それでも結果を残すとともに少しずつサーキットでも受け入れられてきた。特に、2019年から参戦したGT300では、いきなり第2戦富士でポールポジションを獲得するなど、その存在感は学生やディーラーメカニックが携わっているとは思えないプロフェッショナルなもので、一気に強豪チームのひとつに数えられるようになっていった。

 そんなKONDO RACINGのGT300挑戦だったが、いまやGT500クラスで活躍する平峰一貴とサッシャ・フェネストラズというふたりをもってしても2019年に届かなかったのが優勝という結果。特に第4戦タイでは目前まで勝利を手中に収めながらも、ファイナルラップのバトルに敗れ2位。平峰の悔しそうな表情は、今でも忘れられないものだった。

リアライズ 日産自動車大学校 GT-Rのピットの様子

■「ガチンコで勝負して勝ったのがすごく嬉しい」藤波の成長

 2020年、新たにチームはGT500でも豊富な経験を誇るジョアオ・パオロ・デ・オリベイラと、スーパー耐久で実績を残してきた藤波清斗のふたりを起用することになった。特に藤波にとっては大いに期待を込められての起用であり、「このような環境でやらせてもらえるとは思ってもみませんでしたし、絶好のチャンスだと思っています」というチーム加入だった。

 序盤戦から好位置につけつつも、オリベイラが“守る”展開が多かった2020年シーズン序盤戦は、新型コロナウイルスの影響もあり、日産自動車大学校のスタッフたちもサーキットに来られない状況が続いていた。開幕3戦でポイントは得るも、なかなか表彰台には届かない。しかしこの週末、特に決勝レースでは抜群のスピードをもっていた。

「序盤からいいポテンシャルはありましたし、20周目くらいまでセーブして走っていたんです。コントロールできるくらい扱いやすく、乗りやすいクルマでした」という藤波は、序盤からひとつずつオーバーテイクをみせ5周目には4番手、6周目には9周目には3番手、さらに15周目にはトップに浮上した。

 藤波は快走をみせると、29周を終えピットインし、オリベイラに交代する。ところがこのレースでは、無交換作戦や二輪交換という作戦を採るチームがおり、オリベイラの前には無交換作戦の吉田広樹が駆る埼玉トヨペットGB GR Supra GTが走っていた。

 第1戦富士でも無交換作戦を成功させていた埼玉トヨペットGB GR Supra GTだが、少しずつリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rとの間隔は近づいていた。「開幕戦で無交換を行いましたが、昨年のMCも同様ですが、はじめの数周はタイヤが苦しく落ちるんですね。しかし、そこを耐えれば燃料が減ることでタイムが上がり、無交換作戦を実行できるんです(吉田)」というものだが、今回の第5戦富士は参加条件が変わっているうえ、ウエイトハンデもある。第1戦とは100kgの重さの違いがあり、埼玉トヨペットGB GR Supra GTにとっては第1戦の再現とはいかなかった。

「単独走行だったら大丈夫だったと思うんですが、バトルになるとトラクションがなさすぎ厳しかったですね」という吉田を、ペースに優るオリベイラは47周目にパス。これでリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rにとっての歓喜の瞬間がやってきた。

 実は藤波にとっては、2019年の第5戦富士以来の2勝目。ただ昨年は第3ドライバーで、作戦のなかできっちりとその仕事を果たす役割だったが、今季は攻めてトップに立ち、そして勝った。藤波のドライバーとしての成長も感じることができた一戦だった。

「昨年は作戦で勝った部分もありますが、ガチンコで勝負して勝ったのがすごく嬉しいです」と藤波は笑顔で語った。そして、新たな高みも目指しているという。

「1勝という目標を達成することができたので、次の目標としてチャンピオンを目指したいと思います」

埼玉トヨペットGB GR Supra GTに対しTGRコーナーで仕掛けたリアライズ 日産自動車大学校 GT-R
2020年スーパーGT第5戦富士 リアライズ 日産自動車大学校 GT-R(藤波清斗/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ)

■「嬉しいというよりもホッとした」近藤真彦監督も安堵の表情

 そしてこの勝利こそ、2年越しの目標のひとつを叶えた瞬間だった。近藤真彦監督は「ちょうどはエンジニアともいま話をしていたんですが、1年前に勝っていてもおかしくなかったんですよね。そういうチャンスはいくつもあった。ドライバーふたりも速いですしね」という。そして出てきたのは、喜びよりも安堵の声だった。

「本当に嬉しいんだけど、ちょっと遅かったね(笑)。いつ勝ってもおかしくない体制でしたし、嬉しいというよりもホッとしたという方が大きいです。販社の皆さんや日産自動車大学校の皆さんがバックアップしてくれましたから」

 ちょうど今回のレースからは、新型コロナウイルスの影響で制限されていたチームスタッフの人数も緩和され、ディーラーメカニックや学生もチームに携わりはじめた。またゲストも多く訪れていたが、ピットレベルとピット棟2階のホスピタリティスペースは、PCR検査を受けた人とそうでない人で隔離されており、思うように会いにはいけない。

「リモートで挨拶するくらいしかできなかったんですが、皆さんの前で勝てたのは恩返しになりましたし、今季初めてお客さんが入ったレースで勝てて本当に嬉しいです。上で指をくわえてみているディーラーメカや生徒は、うらやましくて仕方ないんじゃないですか? 今回参加したメンバーがいい仕事をしましたから(笑)」

 2012年から続いてきたチャレンジも、これでGT3マシンを使うレースの頂点にたどり着いた。「GT-Rとニッサンが元気になるだろうし、そういう意味では良かったと思います」と近藤監督は笑顔をみせた。そして、ピット棟の日産自動車大学校のゲストたちと藤波、オリベイラたちが笑顔で勝利を祝う光景は、このプロジェクトの大きな成果のひとつと言えるだろう。

ピット棟の日産自動車大学校のゲストたちと藤波、オリベイラたちが笑顔で勝利を祝う光景は、このプロジェクトの大きな成果のひとつと言えるだろう。

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