保守・点検の時間を確保へ JR東日本 来春に終電時間を30分繰り上げ

終電から始発までの限られた時間内に実施される線路の保守作業(京浜急行電鉄提供)

 JR東日本(東京都)は来春、首都圏を走る在来線の終電時間を約30分早める。1987年の民営化後に一律で終電を繰り上げるのは初めて。決断の背景には、新型コロナウイルスの影響による利用者の激減だけでなく、鉄道設備の保守・点検に充てる作業時間の確保という狙いがある。

 「新型コロナの収束後も鉄道利用の水準は元には戻らない」

 JR東の深沢祐二社長は9月の会見でそう踏み込んだ。コロナショックによって毎日の通勤や通学は「当たり前」ではなくなりつつある。在宅勤務の定着などによる利用客の減少は不可避と判断し、強い危機感をあらわにした。

 深夜帯の車内風景も様変わりしている。JR東によれば、平日午前0時台の山手線の利用客は8月に前年同月比で約66%も減った。神奈川県内を走る京浜東北線や東海道線などもコロナ禍で減少しているという。

 鉄道運行は固定費の負担が重く、支出の削減が難しい。根幹事業の採算悪化を受け、JR東は2021年3月期の連結業績が4180億円の最終赤字に陥ると予想した。

 そんな状況下で発表された来春からの終電繰り上げ。その最大の狙いは、列車が走行しない時間を延ばすことで鉄道設備の保守・点検作業に大型機械を本格導入し、作業員の負担を軽減する点にある。

 首都圏では現在、最終列車が終着駅に着いてから始発が走りだすまでの約200~240分をレールや架線などの保守・点検に充てている。作業が人力であれば準備や片付けは20分程度で済むが、大型機械を入れる場合は設置や撤去に計1時間を要するという。

 JR東によれば、線路の保守を担う作業員は過去10年で2割減り、今後10年でさらに1~2割の減少を見込む。一方、近年は駅のホームドアをはじめとした設備の拡充が進み、工事量は増加傾向にある。

 乗客の安全確保は鉄道会社の至上命令だ。しかし、夜半から未明にかけての現場作業は敬遠されがちで、人手不足解消の糸口は見いだしづらい。作業を人力から機械に切り替えると、実作業時間が差し引きで40分も削られてしまう。

 そこでJR東は、深夜帯の鉄道利用が激減したコロナ禍にあって終電繰り上げに踏み切った。30分の捻出にはそんな事情がある。各路線の最終電車をおおむね1時ごろに終着駅へ到着させ、一部路線については始発の時間を遅くして実作業時間を確保するという。

 JR東の動向は、接続する私鉄各社にも影響を与える。県内に路線がある東急電鉄(同)や小田急電鉄(同)、京浜急行電鉄(横浜市西区)、相模鉄道(同)の4社は、終電時間を見直すかどうか検討するとしている。

 たびたび24時間運行の可能性も議論されてきた都市部の鉄道だが、コロナ禍で潮目は完全に変わった。JR東は終電を繰り上げる各路線について近く公表するとしている。

© 株式会社神奈川新聞社