【おんなの目】 太陽

 早朝三時、目が覚めた。まだ外は暗い。一晩中つけっぱなしのラジオから歌が聞こえる。−よこはま たそがれ ホテルの小部屋−

 長く横浜にも行っていないなあ。ホテルの小部屋にも泊まっていない…。横浜に住む友人のMさんのお母さんが先月亡くなられた。約5カ月間入院していたのだけれど、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、危篤になった時、一度だけしか面会が叶わなかったという。Mさんは中学校まで山口市に住んでいてそれ以来の友人。彼女のお母さんにもお世話になった。行って励ましたいのだけれど自粛している。

 外はまだ暗く雨まで降っている。肌寒い。夏布団を首まで引き揚げて丸くなる。今度は内藤やす子が歌っている。−想い出ぼろぼろ くずれるから 瞳こらして闇の中−

 私の想い出の大半はもう崩れ落ち、記憶の彼方に消えてしまっている。いつもなら4時過ぎにはパッと起き上がるのに、今朝は起きられない。だらだらと寝返りを打つ。今日は予定もない。だから、起きても寝ていてもさして変わりがない。

 寝入ってしまったらしい。目を開けると高窓から太陽の眩い光が私の両手に降り注ぐ。手を開いたり閉じたりして光を捕まえる。掌が暖かくなり全身が目覚める。起きよう。することはいっぱいある。

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