コロナで延期、長崎くんち 来年は必ず「奉納踊りを」 本石灰町・御朱印船「長采」原田さん 晴れ舞台思い描く

来年に向けて意気込みを語る原田さん=長崎市、諏訪神社

 長崎の秋を彩る伝統の長崎くんち。「庭見せ」「人数揃(にいぞろ)い」を経て7日の開幕を迎えるはずだったが、新型コロナウイルス問題の影響で奉納踊りは来年への延期が決まり、今年は神事だけが執り行われる。例年とは様変わりした町の光景に、関係者は寂しさを感じながらも気持ちを切り替え、1年後の晴れ舞台を心待ちにしている。本石灰町の「長采(ながざい)」として出演予定だった原田伸一さん(41)もその一人。「来年こそ、町の伝統を守る奉納踊りをしたい」と前を向く。
 9月13日、同町自治会館。自治会青年部のメンバー約20人が、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を保ちながら約1時間、ストレッチに励んだ。毎月の地域の「夜警」に合わせた基礎トレーニング。「(くんちに向け)けがをしにくい体づくりをしよう」と原田さんが提案した。「最近、どがんね」-。互いの近況やくんちへの思いなど、会話に花が咲く。体づくりはもちろん、大切なコミュニケーションの時間にもなっている。
 今年の踊町の一つだった同町の演し物「御朱印船」は、長崎の商人だった荒木宗太郎が貿易先のベトナム中部の安南国王女を妻に迎え、長崎まで一緒に航海したエピソードに基づく。航海の荒々しさを表現した重量感ある船回しが見どころだ。1998年、家族で切り盛りする原田さんの中華料理店が同町に移転した。翌年のくんち。「御朱印船」の奉納踊りを初めて間近で見た時の感動を今も忘れない。大きさ、迫力、豪華さ-。目がくぎ付けになり、「次は自分も出てみたい」と思った。
 町の青年部に入り、2006年、「がむしゃらに稽古して」、くんちに初出演。夢中で駆け抜けた3日間の最終日、自然と涙がこぼれた。自分でも驚いた。原田さんにとって、くんちは「一人一人の気持ち、町が一つになる」伝統行事だ。周囲が「キャプテンシー(統率力)があり、頼れる男」と評する努力家。7年ぶりの出番となる3度目の今回は指揮を執る「長采」の大役に抜てきされ、店の常連客も「いよいよやね」と楽しみにしてくれていた。
 だが4月、今年の奉納踊りの中止が決定した。国の重要無形民俗文化財に指定されている奉納踊りの中止は、昭和天皇の容体悪化で取りやめた1988年以来。ニュース速報をスマートフォンで見た時の衝撃を「覚悟はしていたが、言葉にならなかった」と振り返る。1カ月ほど落ち込んだが「このままではいけない」と気持ちを奮い立たせた。仲間も同じ気持ちだった。9月27日、仲間たちと市内の荒木家の墓前に集い、手を合わせて願った。「見守っていてください」と。
 例年と打って変わって、静かな町の雰囲気。「寂しさが込み上げてくるが、くよくよしても仕方ない。今できることをやるだけ。しっかりと準備して来年に臨みたい」。時間ができた分、トレーニング方法を考え、工夫しながら来年に向けた準備を始めようと思っている。爽快な秋空の下、気持ちを一つに奉納する姿を思い描く。来年は必ず-。くんちに携わる関係者、共通の思いだ。

© 株式会社長崎新聞社