酒税法改正、真の狙いは6年後の税収増?人気の新ジャンルは最終的に1缶26円アップ

今年の10月から酒税法改正の第1弾がスタートしました。同法は2026年10月にビール類の税制を一本化するための段階的な措置として行われました。税法上、ビール類はビール、発泡酒、新ジャンル(第3のビール)に分類され、それぞれ税金が異なります。税金が一番高いのがビール、次いで発泡酒、新ジャンルという順番です。改正により、ビールの価格は1缶(350ml)あたり7円下がり、第3のビールは9.8円上がります。


ビール、発泡酒、新ジャンルの定義は

ビール、発泡酒、新ジャンルの定義について改めて整理します。ビールは水、麦芽、ホップに酵母を加えて発酵させたもので、アルコール度数が20度未満のものです。ビールは、麦芽比率が50%以上で、香り等のアクセントとなる副原料の重量の合計は使用麦芽の重量の5%の範囲内と定められています。また、ビールに使える副原料も決められています。

一方、発泡酒は、副原料として定められたもの以外を使用したり、麦芽比率が50%未満であったりすることなどが定義されます。新ジャンルは別名、第3のビールと表現されますが、実際はビールと似て非なるものです。麦芽以外を原料にするものは「その他の醸造酒(発泡性)①」、発泡酒に別のアルコール飲料(麦由来のスピリッツや焼酎)を混ぜるものを「リキュール(発泡性)①」と分類されます。

真の狙いは税収アップ?

今回の改正の背景には、税収入のアップを目指す狙いがありそうです。そもそも、日本の租税収入における酒税収入割合は、1902年度にはおよそ3割強を占めていましたが、2016年度では2.2%と、近年は低くなっているのが現状です。

2026年、上図のように最終的にビール類は1本化される予定です。ビール以外の発泡酒や新ジャンルの売上が伸びていることを考えると、酒税全体の収入額は1本化した後のほうが増える、と言われています。

日本のビール税は高い

なお、別の側面で見てみると、国際的に比較して日本のビールの酒税が相対的に高いと言えます。各国の蒸留酒のアルコール1度あたりの酒税を100としたときに、日本のビールのアルコール1度あたりの税金は440、つまり蒸留酒の4.4倍です。

アメリカは蒸留酒の酒税を100としたときにワイン、ビールは5となっています。日本を除けば、国際的に見てもビールは、アルコール1度あたりの酒税が蒸留酒を下回っており、各国と比較しても日本のビールにおける酒税が高いことがわかります。

税収面だけでなく、国際的に高い日本のビールにおける酒税を下げれば、ビール離れを抑止できるため、飲料各社に一部配慮したとの狙いがあるように思います。

若者のお酒離れはウソ?

飲酒率の統計は様々ありますが、日本酒造組合の調べでは必ずしも、飲酒率が低下している様でもなさそうです。2017年の男女の飲酒率を見ると、1988年と比較して男性は減少、女性は増加していることがわかります。

特に女性は「飲む、飲める(飲めるがほとんど飲まない人を含む)」人が約20%増え、飲む人が増加しています。全体として飲酒人口に大きな増減はないようです。

業務用ビールは苦戦

若者はお酒を好まない、または、飲みに行かないのか。実態をみると若者よりもむしろ年齢を重ねるごとに外での飲酒機会が少なくなっていることがわかります。

節約志向の高まりから自宅での飲酒頻度は全体で14.2回/月となっており、中・高齢層ほど自宅飲酒回数が多いのです。また、この調査後、新型コロナウイルスの感染拡大により外食や居酒屋での飲酒機会が減った人が多いと思います。

自宅にいながら友人と飲むオンライン飲み会が広がり、若者も自宅での飲酒機会が増加していると考えられます。飲料各社は業務用ビールの販売が苦戦し、一般家庭での節約志向が高まり、発泡酒や新ジャンルの売上が伸びているようです。

また、飲料各社はお酒を飲む人の健康に配慮した糖質オフ等の商品作りにも力を入れています。これは、お酒を頻繁に飲む年配層は安いビールを飲むことが多いこと、お酒を飲む層は健康にも気に掛けるという市場動向の下、健康にもアプローチしたビールを販売し、一定の需要を取り込んでいるようです。

クラフトビールと地ビールの違いは?

日本では、クラフトビールの明確な定義が存在しませんが、米国の業界団体「ブルワーズ・アソシエーション」では以下のように定めています。

大手メーカーから独立したビール作りをしている。②1回の仕込み単位が20kl以内で仕込み、作っている人の目が直接届く。③伝統的な方法・地域の特産品などを原料にした個性あふれるビールを作っている等の3点です。

日本ではクラフトビールと地ビールは同義で使われるケースが多いですが、地ビールはお土産の要素が強く、その土地の特色をアピールしているように感じます。一方のクラフトビールは小さい規模で作っているビールを工芸品=クラフトに例え、職人のこだわりや個性が入っています。

価格相場に縛られないメリット

身近なスーパーでも手に入るクラフトビールとして、ヤッホーブルーイング(本社:長野県軽井沢町、代表取締役社長:井出直行)の販売する商品があります。何種類か試飲しましたが、大手ビールと比較して、フルーティーな飲みごたえのものや苦みが強いものなどまさに、個性豊かな味わいを感じました。通常のビールより価格が高いので特別な日のちょっとした贅沢をするニーズを上手く取り込んでいるようです。

通常のビールはだいたいこのぐらいの値段と、世間の持つ相場観があります。一方、クラフトビールは高いというイメージがあるため、飲食店での提供価格はお店の裁量によるところが大きいです。
例えば、ワイングラスのような容器で提供し、クラフトビールに合う専用料理やおつまみを出して、客単価の上昇に繋げるという提供の方法です。価格を少し高めにしても、美味しさを知れば消費者も納得するはずです。

ビール好きの若者を育てる

飲料各社の長期的な課題が収益性向上です。昨年、国内の清涼飲料のうち、大型PETボトルを値上げしました。1社が先行的に行ったことで他社も追随しており、20数年ぶりの出来事でした。お酒も同様に収益性を追うようになっています。

アサヒグループホールディングス(2502、東証1部)は2019年からビールの販売数量の公開をやめました。数量を追うことで収益性が犠牲になるのを防ぐためとしています。この点も、クラフトビールに活用余地があると考えます。

飲酒量やお酒購入時の意識は、若者ほど新しいお酒へのチャレンジ意欲が高く、銘柄を指定して買わない傾向が明らかになっています。銘柄に固執しない若者はチャレンジ精神が旺盛である半面、これだというビールに出会っていないとも考えられます。

ビールを今までと違ったイメージを作り出す方法としてビールのプレミアム化を狙った戦略があります。これは国内のみならず、海外でも進めている戦略となっています。若者にビールとの新しい接点を増やすことで、今後のビールを嗜好する人を育てることに繋がることに加え、収益性の向上にも繋がります。

ビール離れに待ったをかける限定品

ビール大手も通常のビールだけを販売しているわけではありません。この時期、各社は秋に限定発売するビールがあります。例えば、キリンホールディングス(2503、東証1部)の出すキリンの「秋味」。通常のキリンラガービールより麦芽が1.3倍入っており、アルコール度数も少し高めの6%となっており豊かな味わいがキャッチフレーズです。

また、サッポロホールディングス(2501、東証1部)の「琥珀エビス」は、普段はお店でしか楽しめないようなビール。宝石のように輝くクリスタル麦芽によって目にも美しい琥珀色の輝き、深いコクとまろやかな味わいを謳っています。

キリンが展開する飲食店向けクラフトビールサービス

キリンの展開する「Tap Marche(タップ・マルシェ)」は、飲食店向けに多品種少量のビールを提供するサービスです。通常業務用のビール樽は小さいものでも7Lのサイズがあります。一方、タップ・マルシェは3Lの容器で2種類か4種類のビールを届けるというサービスです。

お店でのキリンビールの販売数量は減りますが、新サービスによってビール全体の杯数は伸びている様です。クラフトビールは鮮度が重視されます。少量販売は鮮度を維持するにも便利かつ、クラフトビールは1種類のみでは飲み比べを楽しめないので種類が多いこと大事であり、この戦略がヒットしたように思います。

クラフトビールは救世主となるか

また、キリンホールディングスの展開する個人用の会員制定期購入の「Home Tap(ホームタップ)」というサービスがあります。家庭で作りたてビールが楽しめることが売りとなっています。このサービスの値段は少々高めですが、普段飲めないビールが鮮度の良い状態で楽しめるのが高評価を受けているようです。

ビールは通常、作り立てが美味しいと言われています。アサヒビールは製造してすぐに販売していることをアピールし、鮮度を重視していることを謳っています。

飲料各社の収益性向上とビールの売上げ数量を伸ばすカギは、クラフトビールが担っているではないかと考えます。飲料各社がより一層、独自の味を追求することに期待する共に、どのように収益性を追うのか、今後の各社の取り組みに期待します。

ビールの値段が少し下がった今、普段飲まないビールを手に取ってみてはいかがでしょうか。

<文:投資情報部 杉浦健太>

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